深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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J. D. サリンジャー『サリンジャー選集3 倒錯の森』
サリンジャー選集(3) 倒錯の森〈短編集2〉サリンジャー選集(3) 倒錯の森〈短編集2〉
(2000)
J.D.サリンジャー、刈田 元司 他

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 一つの物語はけっして終わることがない。語り手は通例ことばを切るのに適当な、気のきいたポイントをみつけるだけだ。ただ、それだけだ。

J. D. サリンジャー「ブルー・メロディ」



 昨日の『サリンジャー選集2』に続き、単行本未収録の中短篇5つが収録されている。昨日も少し書いたが、このようにほぼ年代順に初期の短篇を読み進めていくと、次第にその作品が洗練されていくのがわかって感慨深いものがあります。よく「全集を読め」といわれるのは、こういう面もあるのかな。

『選集2』に収録されているのは習作といった面が強かったけれど、本書になると楽しんで読める作品が多くなってきた。よく知られたサリンジャーの作品に近づいてる感じがよく伝わってくる。

 何が変わったのかなと考えると、シュールと紙一重なユーモラスな語り方が増えたきた感じがする。あとは登場人物の描写に厚みがでてきて、魅力的でおかしいキャラクターが増えてきたように思う。

 例えば「ブルー・メロディ」で、主人公ラドフォードの生まれた町に「パッカーさんの通り」と呼ばれる通りがあって、そのパッカーさんは南北戦争のときに北軍兵士を5人立て続けに銃で打ち倒したんだとか、幼いころのラドフォードのガール・フレンドが首のへこんだとこにガムを入れてるとか、その女の子がラドフォードのどこが好きかって聞かれて「黒板の前に立ってるときの格好が好き」とか答えるとこは、サリンジャーらしくてとても好きなところです。



 簡単に個々の作品に触れると、「大戦直前のウェストの細い女」は、戦争を間近に控えたときに、船上で出会った男女の恋を描いたもので、それぞれの運命が決定的に定まってしまう前の不安定な状態を切り取っている。戦争直前の雰囲気と混じりあって印象深い作品になっている。

「ある少女の思い出」は、大学を放校処分になった少年が父親の勧めでヨーロッパに勉強にいった際に、ウィーンで出会った少女との淡い交流を描いたもので、上の作品とともにサリンジャーはロマンスを描くのもうまいなと思わせる作品。片言のドイツ語と英語で繰り返される交流は甘美で、大戦中にナチスによって消息不明になった相手の少女が悲しさを引き立てている。ユダヤ人のことを取り上げているのも珍しい。

「ブルー・メロディー」は、黒人が営む場末のレストランで音楽を目当てにに出入りしていた少年が、歌手として有名になる姪が黒人差別のために死ぬのを目の当たりにして、社会の抱える矛盾に気づくという話。この作品も黒人に対する差別という社会的な問題を正面から扱っていて珍しい。

 この作品はラドフォードとペギーという幼い少年少女の恋や、あまり大人が感心しない場所に出入りする高揚感、少年たちと大人の黒人たちとの友情などの描き方がとてもうまいと思う。だからこの事件がラドフォードに深い傷を残していることが明らかになるエピローグが印象的で切ない。

「倒錯の森」は、コリーンという女性が幼いころ好きだった男の子が詩人として活躍していることを知り再会、結婚するが、学生と偽って近づいてきた夫のある女を選び駆け落ちしてまうというもの。詩人がキャリア・ウーマンとの社交的な生活よりも、狡猾な女に馬鹿にされながらのうらぶれた退廃的な生活のほうを選ぶというのはよくわかるような気がする。
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