深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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J. D. サリンジャー『サリンジャー選集2 若者たち』
サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉
(2000)
J.D.サリンジャー、刈田 元司 他

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 ただね、この前の戦争にせよ、こんどの戦争にせよ、そこで戦った男たちはいったん戦争がすんだら、もう口を閉ざして、どんなことがあっても二度とそんな話をするべきじゃない――それはみんなの義務だってことを、ぼくはこればかりは心から信じてるんだ。

J. D. サリンジャー「最後の休暇の最後の日」



 サリンジャーは『ナイン・ストーリーズ』をまとめて出版する前に20篇近い短篇を雑誌に発表している。サリンジャー自身はあまりこれらの短篇について触れられることを嫌がっているようだが、日本ではこのようにまとめて読むことができて嬉しい。

 本書には1940年発表の処女作から1945年までの16編が並べられている。一場面を切り取ったスケッチのようなものや、叙述トリックを使ったあまりうまいとはいえない掌編から、次第に第二次大戦の影響を受けた作品、特にベーヴ・グラドウォーラー、ヴィンセント・コールフィールド、その弟のホールデンらが登場するナイーヴな一連の作品に変わっていく。
 やはり全体的に習作といった感じが濃くて、サリンジャーも一朝一夕にできあがったわけではないんだなと感慨深いものがある。しかし、その反面、後の作品には見られないような多彩なテーマを扱っていてとても興味深い。戦争について直接描いているのも特徴的だと思う。


「若者たち」は若い男女のパーティの一場面を描いている。短い紙数の中で何人もいる若者の心の動きを描き分けていき、当時の若者の風俗を巧みにスケッチしている。そしてその中に、男の子の一人に悩みを打ち明けようとして必死に話をするも相手にされないエドナという女性の心理が巧みに描かれていて、処女作とはいえ本書の中でも印象深い作品になっている。

 そのほかに興味深いのは、ベーヴ・グラドウォーラーとその友人ヴィンセント・コールフィールドが出兵する前夜を描いた「最後の休暇の最後の日」、フランスの塹壕の中でベーヴが母からの手紙を読む「フランスのアメリカ兵」、戦地で行方不明になった弟のことが心配で気が気でないヴィンセントを描いた「マヨネーズ抜きのサンドイッチ」、復員したベーヴがヴィンセントの戦死をかつての彼の恋人に告げにいく「他人行儀」などの一連の作品である。

 ここでは戦争が人々の精神に深い傷を残していくさまと、その傷を負った人間を支える家族の絆が直接的に描かれていて、後のサリンジャーの作品のテーマが先取りされているような印象を受ける。また「最後の休暇の最後の日」でベーヴが妹のマティーに「すばらしい人になれよ」と告げるところは、素直にサリンジャーの考えを表白しているように見えて胸を打たれた。


 当時の若い女性が結婚して幼いこどもをなくして変化していく姿を描いた「ルイス・タゲットのデビュー」、音楽家の兄のために作詞をし小説家の夢を果たせないでいる弟とその遺作を描いた「ヴァリオーニ兄弟」、新兵時代に慣れない軍隊生活を慰められ、真珠湾で味方を助けて戦死した軍曹の思い出を語る「やさしい軍曹」なども印象深い。
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