深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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高木光太郎『証言の心理学』
証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)
(2006/05)
高木 光太郎

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 心理学の本を読んでいると人は簡単に誤りを起こしてしまうことがわかる。その辺りが心理学がおもしろいところだと思う。下條信輔が『サブリミナル・マインド』で指摘するように、責任逃れにつながる可能性はあるのかもしれないが。

 目撃証言はその扱う場面が大きな意味を持つこともあり、専門書もあるようだ。このコンパクトな本では、「記憶の脆さ」「ネットワークする記憶」「正解のない世界」の3つのキーワードから、心理学が証言の現場にどのように迫るのかを描いていく。

記憶の脆さ


 ある教授の授業に突然銃を持った男が乱入。しかしこれは狂言だった。居合わせた生徒に報告をさせるといくつもの誤りが見つかる。このように出来事が生じた時点ですでに私たちの記憶は歪んでいく。

 しかし何の傾向もなく歪むのではない。心理学者のナイサーが指摘するキーワードは二つ。

・常識

心理学でいう「スクリプト」。例えば人が部屋に入るとき、ノックして返事を聞いてから入室するといった流れがある。こうした知識を利用して欠落した部分を埋めていく。

・意味

自分にとって関心があるもの、注目しているものが誇張されて記憶に残ったりしてしまう。


ネットワークする記憶


 記憶は個人の内部で完結するシステムではない。他人と同じことを語り合うことで記憶を補い、メモなどの外的記憶補助を使って、記憶を補っている。

 しかし後から付け加えられる情報によって記憶は変容していく。有名なロフタスの衝突実験。交通事故の映像を見せた後、「ぶつかった車の速度は?」と聞くより「激突した車の速度は?」と聞いた場合のほうがより速度を出していたと報告される傾向があった。

 さらに異なる映像を見せた二人に、映像について話し合わせた後一つの答えを出させた実験では、片方の意見に同調した側は、相手の意見を受け入れ、自分が異なる記憶を持っていたことに対する認識(メタ認知)もないことが多かった。

正解のない世界


 心理学は実験者が証言者に提示するストーリーをコントロールでき、証言がどのように歪むのかわかっている。しかし著者が実際の事件に関ったときに直面したのは、確実な根拠を持たない人間が事件について語ることの困難さでった。

 実際の事件を前に心理学が取りうるアプローチは主に二つ。一つはあくまでも実験室で得られた普遍的な知識をもとに参考意見を述べること。それには次のようなものがある。

・凶器注目効果

凶器に注目しすぎて他の側面の記憶が不確かになること。

・ストレス

ストレス状況下での記憶の低下。

・写真バイアス

写真を見せられだけでその人物を見たと思ってしまうこと。

・無意識的転移

別の場所で見た人物を現場で見たと証言してしまうこと。

・構造的ディスコミュニケーション

取調べ側は事件のときに起こった事件の客観的記述を要求しているが、幼児に顕著なように証言側は思いつきや可能性をいっただけというように、コミュニケーションのルールが異なることから歪みが生じていくこと。



 しかしこのような知見が個々の事例に常に当てはまるとは限らない。異なるアプローチとしてあくまでも個々の事件の内部から心理学的な分析をしていく立場がある。

 浜田寿美男の「供述分析」は被告の供述を時系列に並べ、供述の変遷過程を分析し歪みを探していく。

 また著者らは足利事件に弁護側に協力する中で被告の供述場面での行動特性(スキーマ)に注目し、記憶の歪みが紛れ込んだ可能性を探り出していく。


 この本が目撃証言の心理学に対する入門書でありながら、読んでいてとても面白い。それは、記憶の脆さという意外な事実もあるだろう。そして不確かなものについて語らなければいけないという証言の現場で、試行錯誤する心理学者の姿が浮かび上がってくるからだと思う。

 しかし、テッド・バンディーの一件でひどく動揺したロフタスの姿を見ればわかるように、この役割(注:心理学の知見から事件について語ること)を十分に理解し、それを全うすることに全力を傾けようとする熟練の心理学者であっても、「出来事としての事実」から目をそらすことができないようだ。自分の仕事の答えをを知って安心したいという単純な責任回避の欲望ではない。おそらくこれは、特権的存在者が不在の世界でもつ根源的な不安である。

(高木光太郎『証言の心理学』)



 本書で紹介されている浜田寿美男は新書など一般向けの本も書いているが、実証的な手段をとらないということを聞いて、今まで敬遠していた。本書を読むとおもしろそうだね。今度探してきます。
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