深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
小島信夫『抱擁家族』
抱擁家族 (講談社文芸文庫)抱擁家族 (講談社文芸文庫)
(1988/02)
小島 信夫

商品詳細を見る

「塀よりも家の中を直さなくちゃ。あの台所は失敗したなあ。あんなものじゃ台所なんていえないわよ。それともそのくらいの費用をかけるなら……」
「いや、塀だけのことをいうんだ。かこいたいんだ」
 と前とおなじことをくりかえしながら、俊介は、時子の様子をうかがった。
 おれは時子を閉じこめたい。閉じこめておいて、おれや家族のことしか考えないようにさせたい。しかし俊介はそのことを勿論口に出さなかった。

(小島信夫『抱擁家族」)



 つい最近訃報を聞いたなと思って、図書館でふと手にとった。煽りによると島尾敏雄『死の棘』と似たようなテーマを扱っていることで読んでみることにした。

あらすじ


 大の講師の三輪俊介は妻時子と家に出入りする米軍将校との親密な関係を指摘される。情事を認めた妻を交じえ俊介は将校と話をつけ一家を立て直す決意する。回復を示すように将校を新居に招待する一家。しかし妻は乳癌に蝕まれていた。献身的な看病をする俊介だが、妻は回復することはなかった。妻のいなくなった家に耐えられない息子良一との関係は悪くなる一方。再婚を決意する俊介だが、果たせぬうちに良一は家出してしまう。



 重苦しい『死の棘』の雰囲気とは対照的に、淡々とした日常描写が続き、明るくポップな印象すら受ける。けれども扱っているテーマは重く、ままならない家族関係に奮闘する主人公がおかしくも切ない。
 調べてみると、この小説が書かれたのは1960年代前半で異文化の流入にとまどう日本の姿が描かれているという。そういった意味で、テーマの古さを指摘する声もあるようだ。最後に収録されている「著者から読者へ」という文章で、文学はその時代に応じて読まれればいいとい書いているのも、そのことが念頭にあったのかもしれない。

 確かに、妻が一夜の情事に及ぶの23歳の米軍将校であり、日本人の性生活へのコンプレックスが感じられる。また、一家が新築する家はガラス張りの当時としては珍しいものであり、そこに住む一家の落ち着かない気持ちは当時の人が感じたことなのかもしれない。そして新しい家では居間に人が集まるようにできていて、会いたくない人間にも会わざるを得なくなり、息子との関係がこじれていくというところも象徴的でおもしろい。


 それにしても夫婦の仲が生々しく描かれている。特に、乳癌が発覚し男性ホルモンを注射が始まり、ひげや閉経などの変化を意識しながら妻は夫を求める。そして交わる夫婦がかつてない喜びを味わうところはすごいと思う。こんなに切ない性描写はなかなか味わえない。

 作者の文章は難しい言葉を使うことはなく、そぎ落としたようたよう短い文が続く。こういった文章で描いていけるのはとてもうらやましいなと思います。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://deepseafishtank.blog123.fc2.com/tb.php/6-55b44cb9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。