深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』
黒い時計の旅 (白水uブックス)黒い時計の旅 (白水uブックス)
(2005/08)
スティーヴ エリクソン

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「それを使うんだ」とおれは大男に言う、でもいったい、誰にその言葉の意味がわかる? ましてや奴に? それとは暴力のことだ。お前の中にある大きな暴力、「それを使うんだよ」。奴は身動き一つしない。目は死んだように濁っている。ハンクスがおれの腕を乱暴につかみ、ブレーンの顔にへべりついたおれを文字通り引きはがす。反クスの顔には狼狽と同様が現れている。ジョンソンも同じだ。ビリーはただただ唖然としている。残りの連中もみなそうだ。でもこんな連中なんかどうだっていい。リオーナ、お前もだ。おれは部屋の反対側に向けてそう叫びたい。おれはいまや暴力のかたまりだ。

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』


 各所で評判がよかったので期待していたのだけど、個人的にはもう一つ。読み終えるのに一ヶ月かかってしまった。

 ダヴンホール島の中華街で生まれた白髪の少年マークは二度と戻らないと決心し母親デーニアを残して家を出る。本土との往復船の船長に拾われた彼は、船長の死後、その仕事を受け継ぐ。

 ある日、島へ渡った女を追いかけた彼は、最後に訪れた母親の部屋で死体を見つける。バニング・ジェーンライトというその男の生涯が物語の大半を占める。

 彼は父親がインディアンに生ませた私生児で家族から疎まれてきたが、度過ぎたいたずらから兄を殺し逃亡する。逃亡中にポルノを書くことを覚えた彼は、ヒトラーの雇われ作家となって、その姪ゲリの物語を書くことを強要される……。
 ヒトラーが負けない並行世界がどうなるかということを描くのかと思っていたが、基本的にはバニングを中心にした愛憎劇になる。

 バニングがニューヨークに出てくる辺りから人物や視点が入り組み出して読みにくい。小説の依頼主がヒトラーであることはなかなか明らかにならないし、バニングがゲリに向かって語りかけたりする辺りで力尽きてしまった。

 もしそいつが歴史のしもべなんだったら、とお前は答える。それなら歴史は私たちのしもべなのよ。

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』


 そうはいっても、ゲリやデーニアといった女性たちはたくましく魅力があり、全編にあふれる暴力の描写は激しく、あっけなく人が死んでいく様は衝撃的。

 そして何よりも冒頭数十ページのダヴンホール島の描写がすさまじい。イメージ喚起力に富んだ文章で、船の上で黒い霧に包まれるところや島の風習を描き、物語への導入を行っている。この辺りはラテン・アメリカ文学と比較されるのもよくわかる。

 この部分だけでも読む価値はあると思う。もう少し丁寧に読めれば、もっと楽しめるのかもしれない。
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