深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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本田透『喪男の哲学史』
喪男の哲学史 (現代新書ピース)喪男の哲学史 (現代新書ピース)
(2006/12/20)
本田 透

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 結局のところ、イエスの「神に萌えろ、隣人に萌えろ」というアガペー思想=博愛萌え思想は、ほとんどの人間には実践不能だったのです。イエスに萌えれば萌える程、イエスに萌えない異教徒を打ち倒したくなってしまう、という悪循環にハマったのです。イエスは「萌えによるルサンチマンの昇華」という道を指し示したのですが、その具体的な方法論を全人類に悟らせることはできなかったのです。
 組織化・個人のカリスマ化・体系化、これらはすべて、喪男哲学をまったく別のもの、つまり「体制」、言い換えれば「モテ」に変えてしまう原因なのです。しかも、体制としては「モテ」だけど、中身は「喪男」ですから、現実への復讐が始まるわけです。魔女を狩ったり、異教徒を攻撃したり、そこには「脳内で救われろ」という二元論哲学はかけらも残っていません。三次元を「神の国」に変えるためなら何をしてもいいのだ、という一元論の世界になってしまうのです。喪男宗教だったはずなのに、やっていることはモテと同じなのです! ああ! 結局、モテとか喪男とかいう立場は、相対的なものにすぎないのです。

本田透『喪男の哲学史』*1


 新年早々おもしくてしょうがない本に出会えた。

「喪男」とは2chの「モテない男板」に由来する言葉だと思うが、ここでは「モダン」と読ませていておもしろい。

『萌える男』という著作に対し、オタクの恋愛を語るのになぜ哲学が出てくるのかという批判を受けたという。そこで昔から多くの人が考えてきたことなのにそういった批判が出てくるのは、人類の精神史が軽視されているからではないかと考え、哲学史を書くことにしたらしい。

 本書では、「真の哲学はモテない苦悩」から始まるとし、なぜ自分はモテないのか、キモいのかといった理不尽な苦しみがどうして現実に生じるのかを考えていく営みだとしている。
 そして哲学史の歩みを、一部の「勝ち組」が「俺ルール」で支配する現実こそ全てとする一元論に対して、現実に苦しめられる人間がそこから飛翔しようと、人間の内面世界を重視する二元論との対立だとする。

 こういったコンセプトの下、ブッダやプラトン、キリストからデカルトに始まる近代哲学を経てフロイト、そして現代に至るまでの主要な人物の思想が喪男的な発想に基づいたものであるのかを強引にまとめあげている。

 ブッダはモテたいという欲望が苦しみの原因と喝破しそこから逃れようとしたことになるし、プラトンは「えいえんは、あるよ」と言ったことになるし、著者が大学で学んでいた最強の喪男ニーチェは風俗で梅毒を移され悪女に振り回された挙句、「自分自身に萌え続けろ」という「俺萌え」思想を打ち立てた人物になるのである。

 どの人物も喪男と切って捨てられるので権威も何もあったものではない。2chやマンガやアニメ、ゲームの用語に置き換えたりして、もの勢いで語っていくので何度も噴き出してしまった。


 私は哲学に関して(に限らずだが)は中途半端な知識しかないけれども、それぞれの概念についてはしっかりとまとめられていると思う。デカルトは神を信じていなかったというのは意外だったが。

 何よりも共感できるのは、個人が組織化しカリスマを戴いて教義化することの危険性を説いているところ。それは喪男を体制側=モテに変質させ、俺ルールを押しつける側になってしまう。

 恋愛資本主義が押しつけてくる価値観を相対化し、自分自身の価値観を見つけて生きることを促す著者の姿勢はとても誠実なものだと思う。


 一つ気になるのは、現実に生きる自分を肯定するというのは大切だと思うが、そういった現状に満足する姿勢が、体制側が押しつける「俺ルール」に異を唱えない、体制側の都合のいい存在になってしまうのではないかということ。

 もちろん著者がいう脳内妄想はそこに引きこもり現実を疎かにするものではなく、二次元に救いを求めながら社会の中では良識的に生きることが促されているわけだけれど。

 著者はインターネットが「現代の神」であるマス・メディアの促す「恋愛資本主義」を相対化していくことを期待しているが、そういった予感は確かにあるような気もする。


 かなりおもしろいので哲学に関心がある人におすすめです。ただしスコラ哲学やイギリス経験論、現象学にはあまり触れていません。

 個人的には吉本隆明とか現代、特に日本の部分はほとんど知らない話だったので、そういった方面をまた読んでみたいなと思いました。

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