深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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小方厚『音律と音階の科学』
音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス)音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス)
小方 厚

講談社
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 数学・物理学と音楽とは何の関係もないと思われている。「ひとよひとよにひとみごろ……,サインコサイン何になる……」とは中川五郎作詞・高石ともや作曲の『受験生ブルース』の一節だ。しかし、1.41421356…(√2)は減5度の周波数比であり,サイン・コサインはスペクトル解析の基礎であるフーリエ変換の道具である。数学は本書のためにあるようなものだ。

小方厚『音律と音階の科学』


 人前で歌をうたったり楽器を演奏したりというのは苦手で、特に習いごとをしていたわけでもなかったし、芸術が選択科目になる高校時代は美術を選択した。

 そんなこともあって音楽理論についてはほとんど学んでこなかった。それでも音楽を聴くのはもちろん好きだし、器材も必要としない手軽さもあって、もっと勉強しておけばよかったと思うことがしばしばある。

『魅せる声のつくり方』を見かけたときに、同じブルーバックスのこの本も見かけた。『虚数の情緒』で音楽に数学が関連していることは知ってはいたものの、理解したとはとてもいえないので、一度しっかりと読んでみることにした。
 本書はドレミという音階の背後にある現象を数学と物理学で解説するとともに、ドレミがなぜ人に好まれるかという問題を心理物理学的な側面から解説したもの。著者はフーリエ解析で学位をとったという物理学者だが、音楽が趣味だということで、このような本を書いたのだという。

 音律とはある音楽でどの高さの音を使うかというルールのことである。実際に曲になる場合はそこからいくつかの音を選び出して利用する。これを音階という。

 ある弦を振動させて音を出すとする。この音を基本として弦の長さを半分にすると振動数は2倍になり、高い音が出る。この区切りを一つの単位とし、オクターブと呼ぶ。最初の音とこの2倍音を人はよく似た音と感じる。このことをオクターブ等価性という。

 ピタゴラスはある弦と1:2に分ける弦の長さ、すなわち1/3の弦の長さから出る音が心地よく響くことに気づいた。これはある基本音と3倍の周波数を持つ音ということになる。

 オクターブ離れた音は周波数比が1:2である。ピタゴラスはこの周波数比1:3の音に着目し、単純な周波数比になる音によって音律を構成することにした。

 そこで3倍の周波数を2で割った。すると1.5倍の周波数を持つ音になり、1オクターブの内に収まる。この音を第2音とし、次にこの第2音と1:3の比になり、1オクターブになる音を第3音とするという手続きを繰り返した。

 このように芋づる式に手続きを踏むと、第12音でオクターブ上の周波数が2倍になる音にほぼ近似することになる。ピタゴラスはここで打ち切り12音からなる音律を作成した。ピアノが1オクターブに12の鍵盤を持つのもここが原型になっている。

 しかしこの近似ということがネックになり、第12音は2倍の周波数を持つ音とは若干のずれが存在することになる。オクターブがきちんと閉じないのは問題があったので、一部の音間を短くしてそのずれを修正することになった。

 詳細は省くが、ピタゴラスの音階にはない5倍音を取り入れたものを純正律という。しかしピタゴラスの音律でも、純正律でも各音間の周波数比が一定ではない。この場合、転調を行うとうまく協和しない音が出現してしまう。

 そこで単純な整数比を持つ音の組み合わせによる響きのよさをある程度犠牲にし、一種の割り切りを行って1オクターブを12の等しい周波数比を持つ音に分割した音律が用いられるようになった。これを平均律といい、現代では優勢になっている。


 ある周波数の2音を同時に響かせたとき、その二つが協和するか不協和と感じるかは周波数の差に依存することがわかっている。

 周波数が大きいとき、ヒトは2音を聞き分けることができる。しかし周波数が次第に近づくにつれて不協和と感じるようになる。そしてさらに周波数が近づくと2音は一体となり不協和感は消える。これをヒトの感じる不協和感を縦軸に横軸に周波数差をとると、不協和曲線として描くことができる。

 楽器が出す音は、実は単一の周波数の音(純音)ではない。2倍、3倍…といった整数倍の周波数の音も発しているのだという。ある音に対し、もう一つの音の周波数を変化させた場合、整数倍波ごとに不協和曲線を描き不協和度を算出すると、楽器が奏でる2音の不協和曲線のシミュレーションができる。

 すると「ド」の音を固定した場合、ピタゴラスが導入した3/2の周波数を持つ「ソ」の音や純正律で導入された5/4倍の周波数を持つ「ミ」の音などで不協和度が低くなるのである。

 さらにもう1音加えて3次元上に不協和曲面を描き出すと、3和音の不協和度がシミュレーションできる。そこでもやはりCコード(ドミソ)の位置で不協和度が低くなるのだった。

 こうしてドレミ…という音の数学的なプロセスによる選び方が受け入れられ、西洋音楽の基礎となっていった理由は、それらの音の組み合わせが人々にとって好ましい響きであったからだということが、心理物理学的にも裏付けられるのである。


 上の引用に続いて編集部の方針によって数式はほとんど削除されてしまったというぼやきが続くのだけれど、それでも数字はかなり出てくるので理解するのは骨が折れる。

 それでも比較的単純なプロセスによってドレミという音が選び出されていったこと、それが実際にヒトにとっても好ましい響きを持っているということが視覚的に示されると、新鮮な驚きとして迫ってくる。

 私たちが単純な物理的な関係に反応するようにできていて、そこに好ましさを感じるようにできているというのは、そこに何か進化的な意味があったのか、考えてみるだけでもふしぎである。

 この本はその後、民族音楽と西洋音楽の理論と合流したジャズのコード進行の話や日本を含めた民族音楽の音階が西洋音楽の理論に照らすとどのように映るかといった話が紹介されている。

 さらに西洋音楽の枠組みから抜け出そうとする新しい試みなども紹介されている。しかし、それはやはり西洋音楽の理論が基盤として確固として存在し、その理解が不可欠なのだと思う。

 思ったよりもずっと歯ごたえのある本だったけれど、普段何気なく聴いている音楽がまた違って見えてくるのだろうと思わせてくれた。音楽をもっと理論的に分析できるようになれば、作曲者が曲に盛り込んだしかけもわかるようになって、さらに楽しむことができるかもしえれない。この辺りにはもっと踏み込んで知っていけれたらと思った。
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