深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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リザ・テツナー『黒い兄弟』
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 ジョルジョは涙ぐんでいいました。「おばあさん、ぼく、いきたくないよ。怖いんだ。もう二度とソノーニョに帰ってこられないような気がする」
「おまえ、いくつになったんだい、ジョルジョ?」
「十三だよ」
「あたしが十三のときには、もう一年間もロカルノで奉公をしていたよ。とってもつらかったけどね。十三の男の子が、十二の女の子より弱虫なのかい? はずかしいね」
 ジョルジョは本当にはずかしいと思いました。そして、両手で涙をぬぐっていいました。
「もうだいじょうぶだよ、おばあさん」
「そうだよ、だいじょうぶにきまってるよ。怖いのだって、痛いのだって、すぎてしまえば、どうってことないさ」
 おばあさんはもう一度ジョルジョを見つめていいました。「さあ、おやすみ。明日は遠くまでいくんだからね」

リザ・テツナー『黒い兄弟(上)』


 この『黒い兄弟』は、今は出版事業から完全に撤退してしまったベネッセの前身、福武書店から出版されていたものです。福武文庫版を上下巻のうち片方ばかりしか置いてないのをブックオフなどでよく見かけるので気になりつつも、長い間手にとらないでいました。

 ところが、ひょんなことからそれがアニメ「ロミオの青い空」の原作であることを知りました。「ロミオの青い空」といえば、世界名作劇場シリーズで放映されていたもの。一応見ていたはずなのだが、煙突掃除の少年の話ということ以外はすっかり失念しています。

 ただ暗い煙突の中を光る空へとかけのぼっていくアニメーションと「街並 みおろすのさ 一番高い場所で」という煙突掃除の少年の心を切り取った歌詞のオープニングは忘れることができません。
 そして、とうとう福武文庫版が上下そろっているのを見つけたので、『小公女』に続いて、世界名作劇場つながりということで読んでみることにしたのでした。

 訳者あとがきによると作者のリザ・テツナーは19世紀末に生まれた昔話の語り手だったそうですが、ナチスに抵抗し全てを捨ててスイスに亡命せざるを得なくなったとのことです。その亡命生活の体験をもとに1941年に出版された作品です。

『黒い兄弟』はスイスの山深い村で生まれた少年ジョルジョが村を襲った災厄のために人買いに売られ煙突掃除夫としてイタリアのミラノへ行く姿を描いた作品。

 ジョルジュは、買われた先のおかみさんとアンゼルモという息子、そしてアンゼルモが所属する狼団という街の少年の集団にいじめを受ける。しかし同じ煙突掃除夫の少年と連帯し「黒い兄弟」という集まりを結成して対抗する。アンゼルモの義妹のアンジェレッタなどの優しさや、親方にも理解されるようになり仕事にもなじんでいく。

 しかし同郷の紳士にもらった贈り物をアンゼルモに奪われた挙句、泥棒扱いされ、人間としての尊厳を踏みにじられたジョルジュは数名の仲間とともに、故郷へと向かって決死の逃走を決意するのだった。


 内容のことをすっかり忘れていたものの、児童文学とか関係なしに、これは文句なくおもしろかったです。予想できないエピソードが次々と続き、最初から最後まで飽きることなく一気に読めます。特に最後の逃走劇は、手に汗を握る展開の連続で、冒険小説としてもすばらしいと思います。

 ジョルジュは決して愛されていないわけではありません。スイスの山奥の村での生活は貧しく、ジョルジュも立派な働き手として手伝いに借り出されます。そんな状況でも、ジョルジュは動物をつかまえたり、秘密の場所を見つけたりと苦しいだけの生活を送っていたわけではありませんでした。

 しかし、災厄が続けばあっという間に行き詰まってしまう。人買いに子を渡さざるを得なくなる。そういった山村の現実がきっちり描かれており、一気に物語に引き込まれるのかもしれません。そういった現実に直面してきた78歳のおばあさんが13歳のジョルジュを諭す別れのやりとりは心に残ります。

 煙突掃除夫の仕事は火が消えたばかりの灼熱の煙突にもぐりこんで、煤を払うというもので、健康を損なうだけでなく、直接に命の危険を伴う過酷な仕事でした。そして街の子どもたちは彼らを執拗に馬鹿にし、いじめます。

 それだけならもしかしたら半年という年季は耐えられたかもしれません。しかし贈り物を奪われ、さらに泥棒扱いされるというえげつない仕打ちには、どうして我慢ができるというのか。

 親元から遠く引き離され、同じ人間として扱われない、孤独な状況に置かれた子どもたちがどのような気持ちで生きていたのか。「僕は貧しい家の子」という「煙突掃除夫の歌」は故郷の美しさとそこへ戻りたい一心がひたすら歌われていて、その切実さは胸に迫ります。それは不当な亡命生活を余儀なくされた作者の心の叫びなのかもしれません。

 無事故郷に戻った少年たちを保護した紳士がそれぞれ適性を考えて自活する道まで考慮して援助するというのも、作者の貧困問題への回答なのでしょう。
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