深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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上田勤、行方昭夫『英文の読み方、味わい方』
英語の読み方、味わい方 (新潮選書)英語の読み方、味わい方 (新潮選書)
(1990/04)
上田 勤、行方 昭夫 他

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 このところ立て続けに読んでいる行方氏の著作。こういった本の場合同じ著者のものを続けて読んでいると、ある程度内容が重なってくる部分もあるので、新鮮な気持ちで復習ができ悪くないと思う。

 本書の第一部は行方氏が教えを受けたという上田勤教授の『現代英文の解釈と鑑賞』という書物から40の文章を選び編集を加えたもので構成されている。『英文の読み方』で触れていた先生の一人は上田先生だったんだなということがわかる。

 そして第二部ではヘンリー・ジェイムズの短編『五十男の日記』を最初から最後まで通して読み解いていく。

 英文を日本語のように味わいたい人に向けて書かれたということで、内容は高度で解説なども最小限にとどめられている。『英語のセンスを磨く』などを読んで、さらに解説付きで英文を読んでいきたい場合に最適だと思う。

「はじめに」ですすめられているように第二部の「五十男の日記」から読んでいった。ヘンリー・ジェイムズは『アスパンの恋文』があまり印象に残らずそれきり手つかずだったけれど、この短編はとてもおもしろく評価を改めさせられた。
 物語は英国紳士である五十男がフィレンツェを訪れ、かつて恋に落ち結ばれることのなかった故サルヴィ伯爵夫人との恋の追憶に浸るところから始まる。その彼の前に、夫人の娘であるスカラべリ伯爵夫人に恋する英国青年スタンマーが現れる。青年にかつての自分を見出した五十男は青年を夫人から遠ざけようとお節介を焼きだすというもの。

 ノスタルジックなタッチで描き出されるフィレンツェの美しい描写で一気に物語に惹きこまれてしまった。そして、目の前に現れる青年との類似点が強調されるため、かつての自分に出会ってしまうという話なのかと思っていた。

 それはすぐに勘違いとわかるが、一人の青年をめぐって争う五十男とスカラベリ伯爵の対決がおもしろい。二人とも上流階級に属する人間なので罵り合うようなことはないが、皮肉のまじった激しいやりとりが非常にスリリングだった。

 そしてサルヴィ夫人と五十男の間に何があったかが次第に明かされていくミステリ的な要素もあって、先が気になってしょうがなかった。

「実を申しますと,母はあなたのことを大変な変人だと言っておりました。でもイギリス人は皆変わり者なのではありませんか? あの人を除いては」そう言って彼女はソファの隅に坐っているスタンマーを指した。
「ああ,彼のことならわたしにはよくわかっていますよ」
「あの人は子羊のようにおとなしくて――世間の人達と同じですわ」彼女は声を高めて言った。
「世間の人達と同じ――その通りですね。彼はあなたに恋していますからね」
 彼女は急に真面目な面持ちでわたしを見た。「世間の人についてはそうおっしゃっても構いませんが、あの人については困ります」
「なるほど,でも彼には世間並みでない点もありますよ。つまり,いくぶんあなたを恐れているのです」

ヘンリー・ジェイムズ「五十男の日記」より



 その後に読んだ第一部もすばらしい内容で、とにかく選ばれている文章がおもしろい。独りでは誤読しそうな英文にも触れることができて楽しい。

 まざまざと映像の浮かんでくるグリーンの小説の一部や思わず笑ってしまうようなウルフの巧みな随筆、池に移った月をかき消そうと石を投げ込むロレンスの「恋する女たち」の有名な一節など挙げれば切りがない。

 中でも信念は温情や寛容、同調に力を与える糊のようなものでそれ自体を目的とすべきでないとするフォスターの文章や作家は現実に混じりながら己を保ったままで戻ってこなければならないとするスティーブン・スペンダーの自伝、自分以外の個性からの影響を抑えるために多くの文章を読むことの大切さを説いたT.S.エリオットの文章などには特に感銘を受けた。

 これだけのおもしろい文章を集めてくることのできる読書量と英語の力に圧倒された。

 この本は図書館で借りたもので、今は絶版になっているようですが、いずれ手許に置いておきたいと思います。
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