深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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アーウィン・ショー『緑色の裸婦』
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 ヒュー・フォレスターには物忘れということがなかった。例えば、ニュー・コールド・ハーバーの戦いの年月日を覚えていた(一八六四年五月三十一日―六月十二日)。小学一年のときの担任の教師の名前を覚えていた(ウィーベル、髪は赤毛、体重六十八キロ、睫毛がない)。(中略)
 ところが自分の二十四回目の結婚記念日(一月二十五日)を忘れたのである。

アーウィン・ショー『緑色の裸婦』
「忘却の川の麗らかな岸辺」より


 今年の一月、直木賞作家の常盤新平さんが亡くなられました。私は氏の作品を読んだことはないけれど、氏の訳したアーウィン・ショーの作品には強い印象を受けたので残念に思います。

 アーウィン・ショーを読もうと思ったのは、これまた『夏服を着た女たち』が講談社文芸文庫に入っていたからです。林京子さんといい、講談社文芸文庫には頭が上がりません。

 アーウィン・ショーは20世紀アメリカの作家で、雑誌「ニューヨーカー」に多くの短編を発表するなど、ベストセラー作家として人気を博した有名人だったようです。

 ショーがどれほど評価されている作家なのか、今も読み継がれている作家なのかはわかりません。しかし全く前情報もなく読み始めた『夏服を着た女たち』所収の短編がどれもおもしろいものばかりで驚くとともに、めっけものと嬉しく、好きな作家の一人です。

 表題作のように男女の機微を切り取ったものから、「未来に流す涙」のようなストレートな反戦メッセージを掲げるもの、「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ」のような少年の日の一ページを切り取ったもの。

 多彩でどれも好きな作品ばかりですが、最も好きな作品は「80ヤード独走」。テンポのよいアメフトの描写と人生に敗れた中年男性の涙が強烈に焼き付けられます。


 この『緑色の裸婦』は常盤新平さんの訳ではなく、小笠原豊樹さんによるものですが、積読になっているものが一冊あることを思い出し、ひっぱり出してきたものです。

 この短編集に収められているのは、次の7編。「寡婦たちの再会」「街の物音」「緑色の裸婦」「墓地の金鳳花」「分別盛り」「忘却の川の麗らかな岸辺」「その時ぼくらは三人だった」。

 どちらかというと習作的なものが多いのかもしれませんが、上に引用したような「忘却の川の麗らかな岸辺」のように笑い話のようなものもあって楽しめます。それでも加齢によって記憶を失っていく人間の生を、恐怖でも焦燥でもなく、麗らかに描くところが逆説的です。

 やはり一番おもしろいのは、表題作の「緑色の裸婦」です。これはソ連のある画家が潔癖な女性と結婚し、そのストレスを発散するように描かれた緑色をした妻の裸婦像が始めは傑作として評価されるものの、ソ連、ヨーロッパ、アメリカ各地それぞれの事情でセンセーションを巻き起こして、画壇を追われるといったもの。

 主人公の画家をあわれに描き出されるものの、そこには悲惨さはなく、芸術作品を理解しない社会の狭量さが滑稽にカリカチュアライズされているように思います。


『夏服を着た女たち』ほどのパンチはないかもしれませんが、随所に切れ味を感じられますし、ショーのまた違った一面をみた気がします。

『夏服を着た女たち』は古本屋でもよく見かけますが、ほとんど絶版になっている中、こちらはまだ amazon その他でも取り扱いがあるようです。
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