深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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須賀しのぶ 「桜の夢を見ている」
芙蓉千里 (角川文庫)芙蓉千里 (角川文庫)
須賀 しのぶ

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 舞が終わったとき、ドミトリーは拍手も忘れていた。紫桜(ジーイン)は、嬉しそうに芙蓉を見ている。二人はなにごとか言葉を交わしあい、微笑んだ。その親しげで濃密な空気に、ドミトリーは胸がざわつくのを覚えた。
 それを察したかのように、紫桜の視線が、つい、と動く。黒い目が、ドミトリーを捕らえた。彼女は微笑んだ。あなたのために歌ったのよ。そう言いたげに、たしかに、ドミトリーだけに微笑んだ。

須賀しのぶ『芙蓉千里』
「桜の夢を見ている」より


 図書カードをもらったので、遅ればせながら角川文庫版の『芙蓉千里』を購入してきました。お目当てはもちろん単行本未収録の外伝。

「小説屋sari-sari」で連載されていたときは、「チェリョームハの咲くころ」というタイトルだったそうですが、文庫収録の際に「桜の夢を見ている」と改められています。

 物語の主人公は、フミとともに大陸に渡ってきた少女タエ。第二巻で結婚しヨーロッパへ渡ってしまったことが語られるだけになっていましたが、その事情が詳しく描かれています。
 物語の時間は、フミが哈爾濱にのこる決断をした後、女郎屋「酔芙蓉」が廃業に追い込まれる直前となり、ちょうど第一部と第二部の時間を埋める位置になります。

 ロシア人の青年ドミトリーは裕福な家に生まれながら父との確執で家を飛び出し、マルクス主義に身を投じるも周りになじめず、哈爾濱まで流れてきたところを本編にも登場するベリーエフに拾わた。ベリーエフの付き合いの宴席で、ドミトリーはロシア民謡「窓辺揺れるチェリョームハ」を耳にし驚く。その歌い手がタエで、ドミトリーは定期的に彼女の許へ通うことになる――。

 職業としての当たり前の媚態かもしれない。でもそこに何かを感じ取って触れ合っていく。本音なのか建前なのか、タエの気持ちが巧妙に隠されていておもしろいです。

 地獄を見てきただけに屈折しているけれども、フミと同様にタエも女の意地を見せつけてくれる。原曲は悲恋の歌だそうだけれど、最終的に恋に突っ走る少女の物語になっていて幸せをつかみとる話になり、とても楽しめます。

 ラストの急展開にははらはらしたけれども、それが家族を動かして再会を果たすという持っていき方はよかったなと思います。


 100ページ弱ほどですが、物語を気に入っているなら、単行本で読んでいる人でも、外伝だけのために手にとってもいいのではと思います。個人的には、とても満足しています。

 まだ外伝だけしか読めていないけれど、本編にも加筆修正されているとのことで、また近いうちに読み返したいと思います。



 ちなみに物語のモチーフになっている「窓辺揺れるチェリョームハ」というのはこんな歌らしい。ロシア語はさっぱりわからないけれど、透き通るような物悲しい響きですね。

 動画に出てくるのがチェリョームハでしょうか。遠めには桜に見えますが、花のつき方などがやはり違いますね。



 余談。このログを上げる準備をしているときには、NHK-FMの「今日は一日歌う声優三昧」を聴いていました。「アニソン三昧」のお祭り的なノリとはまた違うものの、テンポもバランスもよくて素晴らしかったです。独り身ですが、楽しいクリスマスでした。
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