深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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佐藤謙三(校註)『平家物語 上巻』
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佐藤 謙三

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 さる程に、船出ださんとしければ、僧都船に乗つては降りつ、降りては乗つつ、あらまし事をぞし給ひける。少将の形見には夜の衾、康頼入道が形見には、一部の法華経をぞ留めける。纜解いて押し出せば、僧都綱に取り付き、腰になり、脇になり、長の立つまでは引かれて出づ。長も及ばずなりければ、僧都船に取り付き、「さていかにおのおの、俊寛をばつひに捨てはて給ふか。日来の情けも今は何ならず。許されなければ、都までこそ叶わずとも、せめては、この船に乗せて、九國の地まで」と、くどかれけれども、都の御使、「いかにも叶ひ候ふまじ」とて、取り付き給へる手を引き除けて、船をばつひに漕ぎ出す。僧都せん方なさに、渚に上が倒れ伏し、幼き者の乳母や母などを慕ふやうに、足摺をして、「これ乗せて行け、具して行け」と宣ひて、喚き叫べども、漕ぎゆく船の習にて、跡は白波ばかりなり。いまだ遠からぬ舟なれども、涙にくれて見えざりければ、僧都、高き所に走り上り、沖の方をぞ招きける。かの松浦小夜姫が、唐船を慕ひつゝ領布振りけんも、これには過ぎじとぞ見えし。

佐藤謙三(校註)『平家物語 上巻』「足摺」より


 今年の大河ドラマは平清盛が主役だが、評判が悪いらしい。私も地デジ化以降、部屋にテレビがなくなってしまい、居間まで降りていくのが億劫で見ないままでいる。

 しかし、たまたま見た平治の乱の回は、結構おもしろく見れた。好感が持てる作り方をしているのに、数字が低調というのは残念。

 そんなわけで、NHKでは平清盛関連の番組も多い。ラジオの古典講読では「平家物語」を読み進めており、こちらの方は、私もこの角川文庫版を購入して毎回聴いている。
 角川文庫版をテキストに選んだのは、単に安かったからだ。岩波文庫版は4分冊なのに対し、こちらは上下2分冊で古本も投売りされていて、入手しやすかった。

 しかしこの角川文庫版、原文の下に註がつく形式をとっているものの、その註は必要最低限、しかも多くは諸本の対照となっている。そのため、原文を味わおうという目的よりも深く研究しようと目的に合っているかもしれない。

 平家物語がいかに平易といっても、ラジオの解説がなかったら投げ出していたかも。やはり岩波文庫版が手軽で読みやすいのかもしれない。

 ラジオは11月までで巻七まで進み、倶利伽羅峠で大敗した平家一門がとうとう都落ちする。ここで角川文庫版は上巻が終わり、下巻に移る。


 平家物語は治承元年に起こる鹿ケ谷事件から始まる争乱を描いたもので、「保元物語」「平治物語」に続く「治承物語」と呼べるとのこと。

 古典を読むというと身構えてしまうけれど、この平家物語は上にも書いた通り、かなり読みやすい。数百年も前の言葉なのに読めるというのはすごい。

 畳みかけるような漢文調の文章のリズムが快く、とうとうと語られたら盛り上がるだろうと思う。上巻はまだそれほど多くはないが、以仁王の挙兵における橋合戦や宮の最期、木曽義仲の快進撃など、アクションがある場面は流石、様々な人物が躍動している。

 多くの作品にインスピレーションを与えた俊寛僧都の鬼界が島配流の顛末や、ここ最近放送の平家一門の都落ちに際しての別れの場面など、しみじみと心を動かされるエピソードも数え切れない。

 清盛を悪人に仕立てるために改変されたところも多いらしく、必ずしも史実に添ってはいない。けれどその分、まさに一級のエンターテイメントとして楽しめばいいのだと思う。


 私の中では、源平の争乱を描いた作品としては吉川英治の『新・平家物語』がそびえたっており、こんな機会でもなければきっと手に取ることもなかっただろう。

 残り5ヶ月、何とかこのまま無事に完走したいなと思う。
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