深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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Thomas Hardy『Far from the Madding Crowd』
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Thomas Hardy

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 前回、『オズの魔法使い』を読んでから一年以上経ってしまいましたが、iBooksEBPocketを使った英文読書は細々と続けていました。

 今回挑戦したのは英国の作家 Thomas Hardy の『Far from the Madding Crowd』です。『狂乱の群れを離れて』という邦題で訳されていたものですが、なかなか日本語訳は入手が難しく……。

『遥か群衆を離れて』として映画化もされているようですが、こちらも見たことがなくずっと読んでみたいと思っていたのです。
 トマス・ハーディは私の好きな作家の一人です。ペシミスティックな世界観を持ち、イギリスの農村を舞台に運命の車輪に押しひしげらるように不幸に落ちていく人間たちを描いたとされています。

 どこにでも手に入る『テス』に衝撃を受ければ、より陰惨だという『日陰者ジュード』が気になるのは自然の流れ。そこで入手が容易なマイケル・ウィンターボトムによる映画化作品『日蔭のふたり』を見て打ちのめされたのでした。

 この作品のラストでジュードの台詞に、うろ覚えですが、「神だとか罪だとか君を惑わせるものが憎い」というものがありました。『超常現象の科学』でも言及があったように、芽生え始めた個人の自由な生き方と旧時代的なものと対立、そのあわいを描いているところも魅力だと思います。

 ハーディの作品は「暗い」ということで、どうしてもだめな人もいると思います。しかし、ハーディはあまり人間の悪意を描いていないように思います。『テス』のアレクやエンジェル、『キャスターブリッジの市長』のヘンチャード、そして今回のトロイととても擁護できない過ちを犯す、けれども彼らにすらいやらしさをそれほど感じないのです。

 運命や偶然を強調するため、それに翻弄されのたうちまわる人間たちの必死さや純粋が際立ち、決して他人事とは感じらず胸を締めつけられるのです。

『ライ麦畑』のホールデンがモーム(冗舌な語りで楽しませてくれるけれどもシニカルな感じがする)とは話したくないけれど、ハーディになら電話をかけてもいいといったのもわかる気がするのです。


 前置きが長くなりましたが、「狂乱の群れを離れて」です。こちらは以前一度だけ古本屋で文庫本を見つけたことがあり、その魅惑的なタイトルに心をそそられたのですが、持ち合わせがなく手に入れることができませんでした。そのニアミスのくやしさもあり、ずっと読んでみたいと思っていたのです。

"I am sorry," he said the instant after.

"What for?"

"Letting your hand go so quick."

"You may have it again if you like; there it is." She gave him her hand again.

Oak held it longer this time—indeed, curiously long. "How soft it is—being winter time, too—not chapped or rough or anything!" he said.

"There—that's long enough," said she, though without pulling it away. "But I suppose you are thinking you would like to kiss it? You may if you want to."

"I wasn't thinking of any such thing," said Gabriel, simply; "but I will—"

"That you won't!" She snatched back her hand.

Gabriel felt himself guilty of another want of tact.

(拙訳)
「申し訳ありません」彼はすぐに言った。
「何を謝るのかしら?」
「すぐ手を放してしまったことをです」
「もう一度手をとってくれてもいいのよ。さあ」彼女はもう一度、手を差し出した。
 オークはその手を取ったが、今度は不自然なくらいに長かった。
「冬だというのに、何てやわらかいんだろう。ひびも荒れたところもない」
「ねえ、もう十分でしょう」彼女はそう言いはしたものの、手を引っ込めはしなかった。「でも、あなたはこの手にキスしたいのじゃないかしら? そうしてもいいのよ」
「考えてもみませんでした」ガブリエルは無邪気に言った。「でも、そうおっしゃるのなら――」
「考えてもみなかったですって!」彼女は勢いよく引き戻した。
 ガブリエルは再度、自身の機転のなさに居たたまれなくなった。

Thomas Hardy『Far from the Madding Crowd』



 やはり『オズの魔法使い』のように子どもでも読めるような作品とは違い、この英文はかなり難しいです。格調高く美しい自然描写や農民たちの訛りの強い会話文には歯が立たず、話の筋を追うのが精一杯というところでした。

 英語版 wikipedia の焼き直しですが、ストーリーはこんな感じです。

 借金をしながらであるが牧場を営む羊飼いのガブリエル・オークは、近くに住むおばの許へやってきたバスシバに一目で恋に落ちる。交流するうちにバスシバも彼を憎からず思うようになるものの、オークのぎこちない求婚には拒絶をしてしまう。

 そんなうちにオークは若い牧羊犬のミスにより全ての羊を死なせてしまい、全財産を失って身一つで職を求めて各地を転々とする。途中、ある牧場で起きた火災の鎮圧に奮闘したそのままそこで働くことになるが、そこの女主人はおじから財産を引き継いだバスシバだった。

 彼女の牧場の近くにはウィリアム・ボールドウッドという牧場主が住んでいたが、彼は40を過ぎても女を寄せつけず、独身生活を謳歌していた。その不遜な態度に刺激されたバスシバは「結婚して」というメッセージ・カードを送る。小娘のいたずらではあったものの、ボールドウッドは悩乱するほどにバスシバへ入れあげてしまう。

 彼への愛こそ感じないものの、結婚相手として申し分のない相手であり、激しい求婚に満更ではない態度をとりながら、曖昧な返事をくり返す。

 そんな彼女の前に突如現われたトロイ軍曹という男にたらし込まれ、男の許に走り結婚までしてしまう。

 ところがトロイは仕事をせず遊び暮らす。さらに彼は昔この牧場で働いており、火災の日に彼の許へと逐電した使用人ファニー・ロビンと恋仲であった。結婚までしようとした二人だったが、ファニーが約束の教会を間違えたことに激怒したトロイは彼女を捨て置いて戻ってきたのだった。

 だがトロイが本当に愛していたのはファニーだった。バスシバとトロイはある日ぼろぼろになったファニーと行き会う。後で迎えに行くと別れるトロイとファニーだが、トロイの子を妊娠さえしていたファニーは力尽きて死んでしまう。

 夫の不審な態度を疑問に思ったバスシバはかつての使用人ということで運ばれてきたファニーの棺を安置する場所へ忍び込み、棺のふたを開け真相を知る。

 そこへ現われたトロイはファニーへの愛を告げ、彼女の許をさる。傷心のトロイはうさ晴らしに海に入るが、潮に流され、消息を絶つ。

 トロイは死んだものとされる中、ボールドウッドはバスシバへ再度求婚をする。罪の意識からバスシバは6年後の結婚を約束する。

 だがトロイは死んでいなかった。二人のことを知ったトロイはクリスマス・イヴに行われたパーティの席に現われ、バスシバを連れ出そうとする。喜びのうちから絶望へ突き落とされたボールドウッドは彼女の目の前でトロイを射殺する。

 後を追い自殺しようとするものの果たせなかったボールドウッドだったが、しかし自ら望み終身刑につく。

 ボールドウッドとバスシバがほとんど経営能力を失っていた中、実務をとっていたのはオークだった。だがそんなオークも消沈するバスシバの許を去ることを告げる。オークの存在の大きさに気づいた彼女はオークの家を訪れる。

 そこでオークが彼女と結婚しようとしているとうわさがあり、彼女の名前が傷つくことを恐れていたのであり、彼女を見限ったわけではないことを知った。「すぐには無理だけれど」と漏らした彼女に、お互いの気持を知った二人は静かな結婚式を挙げるのだった。


『狂乱の群れを離れて』という心そそるタイトルから想像していたものとは正直言って違ってました。『ジュード』のように世間に白眼視される男女の逃避行とか、革命か戦火を逃れて生きる人間たちの物語だとか、そんなものを想像していたのです。

 実際のところは、世間の狂騒から離れた農村で繰り広げられる恋物語といったところであり、誤解を招くタイトルだと憤りすら感じていたのです。

 ところが wikipedia によると、これには参照元があるとのこと。トマス・グレイの『田舎の墓地で詠んだ挽歌』がそれで、このように訳すのが慣習のようです。(こちらのサイトで岩波文庫の訳文を掲載して下さっています)


 喧騒を離れた農村に住みながら、ここに描かれた「静かな生活」と対照的な登場人物たちの姿をアイロニックに描いたものということで、何のことはない私が無知なだけだったようです。


 悲劇のイメージの強いハーディですが、初期の作になるこの作品はコミカルな滑り出しを見せます。ガブリエルが全ての羊を失う場面こそ血生臭いものの、バスシバの出会いの初めての出会い、その後のそのぎこちないやりとりは微笑ましく、そして立場入れ替わっての偶然の再会などは滑稽で、かなり気に入っています。

 その後も口うるさいオークを解雇するものの、事件が発生してバスシバが泣きつかざるを得なくなるところや、後を思えば笑えませんが、いい歳をした男が小娘のいたずらで他愛もなく入れあげてしまうところ、結婚しようとする男女が違う教会に行ってしまうところなどはコミカルに描かれていると思います。

 ところが、トロイが怠惰な生活を始め、ファニーがトロイの子を宿して瀕死で戻ってくる辺りから、物語は急転直下、作者らしい怒涛の展開を見せ、行き着くまもなく結末まで運ばれます。


 それなりに分量のある作品を一応最後まで目で追ったという達成感もあり、全体的にはかなり満足して読むことのできるおもしろい作品だと思っています。

 一つだけ不満をあげるならば、真面目で能力もありながら人間関係に不器用な若者でオークが物語の脇へ退き、傍観者となってしまうことです。物語序盤は彼を中心に話が展開し、好感を誘う魅力的なキャラクターであるのですが。

 代わりに前面に現れるバスシバは勝ち気で男たちと対等に渡りあう近代的な女性ですが、手紙のいたずらや男のもとへ走って結婚してしまう軽率さが目立ってしまいます。

 収穫物を守るため一人外へ飛び出し、同じく現われたオークとともに必死で作業する姿や真実を知るために単身、ファニーの棺を探りに出かけるところなど、女性とは思えない驚異的な行動力を見せるなど、魅力がないわけではないのですが、やはり欠点が気になるキャラクターです。

 他の作品とは異なり、二人は紆余曲折をへて結ばれ、静謐な幸せな結末を迎えます。それでも、この作品はオークという朴訥な青年の恋のドタバタを描くコメディとしての様相を見せながら、結局はバスシバの物語であった、そこだけが残念な気がします。


 5人の登場人物が巻き起こす悲喜劇の他にも、農村での生活が丹念に描かれている点や、バスシバがさまよう森の描写やトロイを翻弄する怒涛のすさまじさなどの自然の妖しさ、力
強さの描写といった細かい部分も印象に残る作品でした。

 ハーディの作品で最初に世に認められた作品ということで、挑戦に値する十分におもしろい作品だったと思います。映画も機会があれば見てみたいと思います。



 余談ですが、『フランクリン自伝』のところで触れたように、私は EBPocket にパソコンにプレインストールされていたepwing 形式の英和中辞典を入れて読んでいました。

 ところが『フランクリン自伝』『狂乱の群れを離れて』でも、中辞典では載っていない単語も多くストレスがたまっていました。大辞典の購入を考えてみたのですが、epwing 形式のものも iPhone のアプリでも結構いいお値段がします。

 悩んでいたところ、『英辞郎』を変換して EBPocket で使う方法があることを知り、 こちらのサイトを参考にその昔に購入したものを入れてみたところ、だいぶ読書がはかどるようになりました。少々手間がかかりますが、『英辞郎』を持っている人は試してみるといいかもしれません。
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