深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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下條信輔『視覚の冒険』
視覚の冒険―イリュージョンから認知科学へ視覚の冒険―イリュージョンから認知科学へ
下條 信輔

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 今、「黒い小四角形」という予想のほうを「合理的」と書いたが、この予想を、もっともっと、疑問の余地がないくらいに決定的にすることもできる。たとえば、黒い四角形が規則的に配列された台紙を用意し、これに自分の手で灰色の円盤をていねいに乗せる。この場合「合理的な予想」とは、自分の直前の行動と記憶を信頼して「黒い小さい正方形」とする以外には、断じてありえない。しかしそれでも知覚の体験的レベルでは、四隅をのぞかせた大きい四角形が「見えてしまう」。認知・思考のレベルの合理的結論を、現象的な知覚の直接体験は臆面もなく裏切って見せる。思考・認知過程からの独立性、と私が呼んでいるのは、このような一面のことなのだ。

下條信輔『視覚の冒険』


 私は昔からイリュージョンを見るのが下手くそだった。ミュラー・リヤー錯視のような誰が見てもわかるものはともかく、少しコツがいるものになるとなかなか見えない。盛り上がる周囲をよそ目に、紙面とにらめっこになってしまうことがしばしばある。

 だから私は視覚の研究にどこかなじめないものを感じていた。しかし、そんな私でも左右二枚の画像を左右それぞれの目で見るようにして重ね合わせるステレオグラムは、子どものころ練習した甲斐もあって、比較的得意なのだ。

 この『視覚の冒険』は、『サブリミナル・マインド』や『サブリミナル・インパクト』と一般向けに心理学の成果を紹介した下條信輔さんが、ステレオグラムで読者を魅了しながら視覚研究の最前線を紹介しようと意図したもの。ステレオグラムなら話にもついていけるかもしれないと思って読んでみることにした。
 そもそも著者は大学院生のころ、自身の研究に焦りを感じているときに、ランダムドット・ステレオグラムの発明者であるベイラ・ユレシュに論文を送ったことでチャンスをつかんだという。

 本書はそのユレシュへのインタビューから始まる。それだけに著者の視覚研究に対してもつ興奮がじかに伝わってくるような気がする。

 平面画像による立体視というのは、視覚の仕組みを解き明かしていくよすがとなるだけでなく、最近では3D映画やテレビなども登場していて商業的にもおもしろいトピックだと
思う。

 視覚の研究は光学・物理学的な内容や生理学的な知識が多分に関わってくるので、かなり難しい。しかし視覚の強力さは上に引用したように、何ら難しい理屈がわからなくても、実際にはそうでないと頭ではわかっていても、「そう見えてしまう」ところにある。

 本書も決して楽に読める内容ではないけれど、視覚の専門的な研究がどういうことをテーマにして、どういう方法を使って研究を行っているのかがわかるようになっている。

 出版されてから20年近くたって、視覚研究がどれほど進んでいるのかわからない。内容の理解もおぼつかないところがあるけれど、心理学における視覚研究について、視覚やそれを行っている脳の奇妙さ・不思議さがよく本だと思う。

 同じ専門的な内容を扱った単著である『まなざしの誕生』よりもさらにとっつきにくい内容ではあるものの、やはりいエキサイティングな書き手の一人だと思う。
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