深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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畝山智香子『「安全な食べもの」ってなんだろう?』
「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える
畝山智香子

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 いずれにせよ、最終的判断をするには、個別の作物や製品の「基準値超過」を問題にするのではなく、総摂取量はどのくらいでそれは安全基準のどの程度なのかを考える必要があるのです。そして安全基準を超過していた場合でも、その基準はどのような毒性データを根拠に認定されたものかまでさかのぼって検討しないとリスクの大きさやその意味は判断できないのです。

畝山智香子『「安全な食べもの」ってなんだろう?』


『ほんとうの「食の安全」を考える』の畝山さんが昨年の福島第一原子力発電所の事故を受けて新刊を出されたということを知って読んでみることにした。

 副題が「放射線と食品のリスクを考える」となっており、食品に含まれる発がん物質のリスクについて説明し、それと比較することで放射線による発がんリスクを位置づけようというもの。

 私自身、だいぶ麻痺してきたとはいえ、3.11以来食べるものに対しては神経質になっていた。米や乳製品、魚や海草といった好んでよく食べていたものを、びくつきながらでしか食べられないという状況は一刻も早く脱け出したい。そのために食品を選ぶ判断材料が欲しい。そして安心して食事をしたいと思ったのだ。
 第1章では、食品の安全基準の設定の仕方が説明されている。動物を対象にした実験により、長期的に摂取しても害がない量(無毒性量)を測定する。そしてヒトと動物の違いを考慮して安全係数をかける。それが一日摂取許容量であり、実際にはそれより低い値が基準値として運用されているということだ。

 ここで問題になってくるのは、食品添加物や農薬といった人為的に添加されるものには管理がしやすいため厳しい基準が設定されやすい。、またヒ素やカドミウムといった天然に含まれる物質はコントロールが難しく、食べられるものがなくなるという政治的理由もあり、毒性データがある程度揃っているので、比較的ゆるいという面があるということだ。

 許容量と基準値が一定の比率で対応しているわけではないので、「基準値超過」をしていても差し迫ったリスクになるわけではない。一方で基準値以内として出回っているものでも注意をすべきものもある。ところが、本当はその内実を問わないといけないのだが、「基準値超過」と聞いてセンセーショナルに反応してしまうのが現状なのだ。

 放射性物質による汚染も同様で、平時には厳密に管理されるものが、事故という突発自体下では同じ基準を用いていてはロスがあまりに大きいため、基準を引き上げ天然に存在する物として扱うということになるという。

 そして食品そのものについては基準の設定ができない。だから、何かが「体にいい」からとそればかりとることは潜在的なリスクに身をさらすことになる。リスクを分散するには、必要な栄養を様々な食品を通じて摂取することなのだ、というのは『ほんとうの「食の安全」を考える』でも語られた通り。

 第2章では、発がん物質がどのようなメカニズムでがん細胞を作るのかを解説し、そのリスクの算定方法が示される。

 遺伝子を傷つける物質を遺伝毒性発がん物質といい、放射性物質はガンマ線のように直接DNAに作用するか活性酸素を発生させることで間接的に作用する。

 その他に体内に取り込まれた際にうまく処理できず、細胞を傷つけ炎症を引き起こすことによって、がんの原因になるものがあり、こちらは非遺伝毒性発がん物質という。サッカリンは尿の少ないラットの雄の膀胱では結晶として析出され細胞を傷つけるため発がん性ありとされたが、ヒトにはその危険はほとんどないという。

 発がん物質のリスク評価も基本的に食品の安全基準と変わらない。動物を発がん物質にさらし、その量と影響の大きさをプロットしていく。ここで、量を少なくしていった場合、確率が小さくなりすぎる、もしくは自然発生の発がんと紛れるということだ思うが、実験では測定できなくなり、「発がんがない量」というのを算出することはできなくなるようだ。

 そこで影響を測定できる最小量と原点を結ぶ直線を想定する。そうするとこの直線の傾きを算出することができ、それらを比較することで発がん物質の強さを位置づけることができるようになるのだ。

 この値を用いると、日本人にとって最もリスクの高いのはヒ素で、米や海草、また水にさえ含まれているという。20mSvの被曝というのは、1日300gの米から摂取するヒ素の発がんリスクと同程度ということだ。

 ふだんの食生活でより以上のリスクに恒常的にさらされているにも関わらず、放射線にばかり大騒ぎしている。

 もちろん摂取する量は少ないに決まっている。けれども、緊急時に基準にがんじがらめになって混乱を招くよりは、ある程度までは許容範囲を広げて現実的な対処を施していくほうが建設的なのではないか。


 放射性物質による食品の汚染は本来は負う必要のなかったリスクで、それにさらされることには何となく嫌な感じを受ける。しかし、このように見てくれば、そのリスクは必ずしも許容できないほど大きいものではないはずだ。

 放射性物質の漏出事故が起こってしまったことは取り戻せない。そのことを前提にすれば、少なくとも検査を受け流通しているものを摂取する上では、神経質になりすぎる必要はなさそうだ。

 この本は専門的な内容を含むにも関わらず短期間で出版されたという。そのため本文は130ページほどで終わる。しかしその中身は今現在必要とされている情報であることは間違いない。

 知識不足のために不安に駆られている人々へ必要な情報を届けようという使命感には頭が下がる思いがする。


 残りのページは、著者が集めブログに掲載された「食の安全」に関する最新の情報が一部抜粋され収録されている。文章ではないので味気はないけれども、ふだんの生活の指針になるような情報に満ちていて、濃い内容になっている。

 そういった意味で、目下の事態に対応するのが主目的の本ではあるけれども、緊急事態が終われば役割も終えるとはいえない。手許に置いておいて損はないと思う。
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2012/05/28(月) 01:55:32 | まとめwoネタ速neo
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