深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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下條信輔『まなざしの誕生』
まなざしの誕生―赤ちゃん学革命まなざしの誕生―赤ちゃん学革命
下條 信輔

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 たとえば、このマシンは最初、知性を持った個体とただのものの区別や、自分自身とほかの個体との区別さえおぼつかないかも知れない。しかしやがて――多少の前提条件を置けばの話だが――、それらのものにはたらきかけたときの応答性のはっきりしたちがいに気がついて、おおざっぱな区別をはじめるようになる。つまり、まったくののっぺらぼうの一般性の中から、一番基本的な特殊性を形成しはじめる。
 そして前にも示したとおり、この特殊性はそれ自体ふたたびひとつの一般性(地)となり、動物と人間のちがい、さわることと見ることの違い、音と言語音のちがいなどの新しい特殊性(図)の分化する土台となっていく。ことばや数字を扱う能力については、それほどあわてなくても、こうした基本的な世界観や社会的スキルが十分に発達したあとで、ゆっくりと学ぶ機会があるだろう。
 こうして、次のような逆説的な構図が浮かびあがってくる。――つまり、学ぶ能力や知能については、周辺的な機能にすぎないと思われたインターフェース/コミュニケーションの機能が、本当はそれらの中核にあり、逆に中核にあると思われた文法能力や計算能力などは、じつは周辺的な機能にすぎないと言えるのではないかと。

下條信輔『まなざしの誕生』


『サブリミナル・インパクト』のところでも触れたが、たまたま新古書店で見つけた『サブリミナル・マインド』は私に学問としての心理学ってこんなにずっとおもしろいものなんだと思わせてくれた一冊だった。

 この『まなざしの誕生』は、その著者が20年以上前、30歳を過ぎた頃に書き上げた意欲作で、2006年に新装版として出版されたものになる。

「赤ちゃん学革命」というサブタイトルが示すように、赤ちゃんがどのような感覚を持っていて、どのように学び、発達していくか、当時の最新の研究がレビューされている。そして、ただただ未熟な存在だとされがちな従来の赤ちゃん像に代わる、新しい赤ちゃんのイメージをつくりあげようという著者の意気込みの伝わってくる刺激的な内容になっている。
 かつてアメリカの哲学者・心理学者のウィリアム・ジェームズは赤ちゃんの住む世界を「咲き誇るガヤガヤとして混乱(the blooming and buzzing confusion)」と表現したという。

 しかし、どうやら赤ちゃんはそのずっと初期から視覚や感覚、記憶といった心の能力を持っているらしい。そのことを検証するために行われた、工夫に富んだ数々の実験をたどりながら、その世界を垣間見ることができる。

 自他の区別すらない、しかし鋭敏な感性を存在。それが世界と出会い、めざましい発達を遂げる。それは少し想像してみただけでも、新鮮な発見に満ちたダイナミックな体験で、湧き立つような興奮を与えてくれる。

 子どもも伴侶さえいない私にも、その瞬間に立ち会うことのできる子育てというものに、一種の羨望を感じた。


 そうして描き出した赤ちゃんのイメージから、決して押し付けがましくはないが、早期からはじまる英才教育、世に行き渡っている知能感の歪みに警鐘を鳴らしていく。

 スキナーに批判的なスタイルも見えて素直に読めなかった部分もあるけれど、能力は「生まれつき」決まっているという考え方や早期教育論に陥りやすいという指摘は覚えておこうと思う。


 やはり著者は個々の紹介をわかりやすく紹介しながら、それを大きなテーマへとつなげていくことのできる、エキサイティングな書き手だと思う。

 若さのせいか、やや文章が堅いと思うところもあるけれど、『サブリミナル・マインド』のような一般書だけでなく、専門書でも、その力を示している。

 新装版のまえがきでは、やや古びている内容もあるがメッセージには変わりはないと著者自身で語っている。

 読みやすさという面ではいくらか劣るかもしれないが、『心理学の「現在」がわかるブックガイド』で紹介されているように、赤ちゃんにとってどう接するのかを考えるのかという面でも、また心理学のおもしろい研究法を知るという面でも、色々な人に手を取ってもらいたいと思う。
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2012/04/09(月) 00:17:53 | まとめwoネタ速suru
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