深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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朱牟田夏雄『英文をいかに読むか』
英文をいかに読むか英文をいかに読むか
朱牟田 夏雄

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 そこで私は、もう一つの内容的思想的方面の重要さを力説する必要を痛感するのである。英文であろうと日本文であろうと、いやしくも文章である以上は、そこには何らかの思想内容がふくまれている。それも He kiced at the dog. というような場合ならとにかく、多少とも抽象的なことを書いた文章などになると、その文章を書いた人は何か言いたいことがあってそれを書いたにちがいないのである。解釈とは要するにその「言いたいこと」、筆者が何を言おうとしているのかをつかむことである。上に言った機械的公式的知識は、そのばあいの道具にはなるけれども、やはりその道具をつかいこなす腕や頭がなかったら、道具だけそろっていても仕事はできるものではない。あるいは機械的公式的知識は基礎工事のようなものであって、基礎工事のしっかりしないところに上部建築をのせようとしてもうまく行かないと同時に、人間、基礎工事だけに寝泊りするわけにはゆかないことを思い出す必要があると思うのである。

朱牟田夏雄『英文をいかに読むか』


 軽い気持ちでベンジャミン・フランクリンの「自伝」に手を出したところ、思いの外難物で、かなり苦戦してしまいました。

 英語を独りで読むのには、やはりまだ力が足りないのではないかと疑問が湧いてきます。次の作品に挑む前に、また英文読解本を読みたくなりました。

 そこで朱牟田夏雄さんの有名なこの本が安く出ていたので読んでみることにしました。『英語のセンスを磨く』だと思いますが、行方昭夫さんが師と仰ぐ一人とした人であり、あの『トリストラム・シャンディ』の訳者としても有名でしょう。
 この本は3部構成になっていて、第1編は総論として機械的な英文和訳から一層進んだ英文味読に必要になる心構え、ポイントが示される。第2編は演習として、近現代の一流の文筆家のエッセイ・評論、小説などの抜粋が数多く集められている。そして第3編は作品研究となっていおり、オルダス・ハクスリーの"Doodles in the Dictionary"という短い評論を細かく区切って読み進めていく。

 分量としては最も短いものの、第1編の総論を読むと、ちょっとばかし英語を勉強してきた人間では鼻をへし折られるかもしれない。大学の試験問題や入試問題を引きながら、苦言とも嘆きともとれる調子で語られる心構えに圧倒される。

 単語やフレーズを意味を知り、文型をつかみ、公式的な構文を押さえても、それを機械的に当てはめて日本語に置き直すだけでは十分ではない。そこには作者が伝えようとする意志があり、ありきたりな言いまわしを避けようとする諧謔やユーモアが存在する。そこまで理解した上で日本語に直すことが求められる。

 かくいう私もオーウェルやモームの文章をかなりとんちんかんな風に読んでしまって、がっくりとうなだれる思いをした。

 第2編で最も分量が割かれている部分で、40人近い一流の書き手たちの文章が集められていて、英文読解の練習としても役に立つし、英文学者たちへのイントロダクションのようなものとしてもおもしろい。

 第3編ではそれまでの内容を踏まえて、まとまった量の評論を読むことになる。これは著者が、フランスの画家ロートレックが少年時代に使ったラテン語の辞書に出会い、そこに描き込まれた落書きに胸躍らせ、ロートレックの生涯やその作品の特徴を簡潔に評していくもの。

 ハクスリー自身の学生時代の退屈な勉強から大人になっても辞書への辟易とした思いを抱えている中、偶然出会い取り上げた辞書から躍動する絵の世界へ飛んでいく鮮やかな展開が見事で、短いながらも興味深く読める評伝になっている。


 外国語を単独で読むのは、訳本が出ているものならともかく、暗い森を歩くような頼りなさがあるもので、あさっての方向に向かっていても誰も教えてくれないし、泥沼にはまっても手を貸してはもらえない。

 それが甘えであるとしても、読みごたえのある文章を解説、訳文付きで読むことができるのは、大変心強く愉快な体験であるのです。解説は最小限の簡潔なもので、導き手は手厳しくはありますが。

 読み通すにはそれなりに時間もかかり骨も折れますが、一段上の英文読解を望む人には取り組む価値のある一冊ではないでしょうか。
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