深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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開高健『パニック・裸の王様』
パニック・裸の王様 (新潮文庫)パニック・裸の王様 (新潮文庫)
開高 健

新潮社
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「灯が消えてるじゃないか」
 彼の後ろから見あげると、屋上からあげた夜間用の宇宙人のアドバルーンが巨大なクラゲのような夜にとけてただよっていた。合田はすばやく窓に背をむけ、照明業者の番号を暗誦しながら机の電話にいつものせかせかした足どりで戻っていった。その後姿に私は小さな感慨をおぼえた。
(一人で戦争している……)

開高健『パニック・裸の王様』「巨人と玩具」より


 私にとって開高健の存在は長らく、大江健三郎のあの「死者の奢り」を抑えて芥川賞を受賞した作家というものだった。『死者の奢り・飼育』の解説でだったか、そのことを知ったときは衝撃だった。

 そして関心の赴くままに、最高傑作といわれる『輝ける闇』を手にとってみた。しかし、ベトナム戦争への従軍体験をもとに描かれたそれはあまりに重くて苦しかった。

 だから続く『夏の闇』やこの『パニック・裸の王様』も購入したまま放置していたのだが、やはり「裸の王様」だけでも読んでみたいと思い出して引っ張り出してきた。
 この新潮文庫には、大発生したネズミに翻弄される人たちの姿を描いた「パニック」、製菓会社の宣伝戦略を題材いにした「巨人と玩具」、嘘に満ちた大人の世界が子供によって暴露される寓話を現代の画壇を舞台に描き出した「裸の王様」、万里の長城建設に従事する人夫の姿を描いた「流亡記」の4編が収録されている。

「流亡記」は会話の全くない殺風景なもので異色ではあるが、他の作品はどれも短くて読みやすいし、おもしろくもっと早く読んでおけばよかった。

 どの作品も社会や組織といったものに属する人間たちが個人の力ではどうにもならない大きなメカニズムにすり減らされ、疲弊していく姿が悲しく滑稽に描かれている。

 そんなやりきれなさの感じる展開の中で、ネズミの集団自殺の爆発的なエネルギーや子どもの創造性の自然な発露といったきらめきが鮮やかに写されて、痛快さも感じられる。

 個人的には、勤め人の哀しさが漂っている「パニック」や「巨人と玩具」に感じるところが多かった。「巨人と玩具」は特にリアルで好きな作品だけれど、上を目指していく京子がもっと軽やかに描かれていればなと思う。誰もが疲れていて救いがない。


 現代社会の戯画というか、寓話というか、そんな感じの作品が多い。その分、特定の人物にクローズアップされることが少なく、あまり小説らしさを感じないところもあった。

 作者の関心はもっとマクロ的な人間の営み、メカニズムにあるのかもしれない。そういった意味では、エッセイやルポでの評判が高いのもうなずける。そういった方面も読んでみたくなった。


 しかし「死者の奢り」に「裸の王様」が同時に候補作になるなど、やはり芥川賞はすごいなとしみじみ思う。
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