深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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山本一力『あかね空』
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山本 一力

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 永吉がいれば、豆を挽いても案ずることはなにもなかった。調子が狂えば、父親が叱ってくれた。
 豆腐の造り方から油揚げの揚げ方、茶碗豆腐の造り方まで、しっかりと永吉から教わっていた。父親が風邪で起きられなかったときは、おふみとふたりで熟した。
 土間に永吉がいなくても、悟郎は不安に思うこともなかった。父親よりも豆腐造りに長けていると思ったことさえあった。しかし、いまはひとりだ。
 初七日が明けて、ひとりで造る怖さを思い知った。
 親父も蛤町で豆腐屋を始めたときは、こんな気持ちだったのか………。
 目の前の永代寺が途方もなく大きく見えた。このさき京やの豆腐を造って行けるのか。悟郎は不安で胸が押し潰されそうだった。
「悟郎……そろそろ始めないと……」
 気がつかない間に、おふみがわきに立っていた。母親の目は濡れていたが、涙の奥に宿る怯えのひかりが、暗いなかでもはっきり分かった。
 立ち上がった悟郎は、思い切り深く息を吸った。それをゆっくり吐き出した。
「分かったよ。始めよう」

山本一力『あかね空』


 NHKの「週間ブックレビュー」を見ていた母親から山本一力さんの本を読みたいというリクエストがあった。『天地明察』を読んで時代小説を好きになったのかもしれないが、低い声で落ち着いて話す作者の人柄もよかったのだろう。

 この『あかね空』は、第回の直木賞を受賞した作品ということで話題にのぼったことを覚えていたこともあり、入手も容易なので、手始めによいだろうと思って図書館で借りることにした。

『あかね空』は、江戸時代、京豆腐の修行をした男が一念発起して江戸の下町に構えた豆腐屋「京や」を舞台に、さまざまな苦労、紆余曲折を経ながら店を守り抜いていく親子二代の姿を描いた物語。
 一読して思うのは、筋運びがうまいなということ。京風の豆腐を水の合わない江戸に持ち込んだ職人気質の男は当然失敗する。しかし長屋住まいの世話焼きの家族の協力と、その実力から固定客を得る。そんな序盤の物語の流れは淀むところなど全くなく、さらさらと進んでいく。

 しかしささいな事故から、女房が罪悪感を抱くようになって、頑迷になり、長男を偏愛する。そこを「京や」の成功をやっかむ商売敵が付け込んでくる。

 最終的には、兄弟がふたたび結束し危難を乗り越えていく。家族だからといって何から何まで分かり合えるわけではないけれど、そのことを踏まえて結束していくことが大事なのでしょう。

 決して目新しい内容はないかもしれないけれど、流れに身を任せるように物語に浸らせてくれるのはすごいなと思うのでした。

 ちょっと文章が気障っぽいところがあって、鼻につくところもありますが、素直におもしろかったです。
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