深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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須賀しのぶ『北の舞姫 芙蓉千里2』
北の舞姫  芙蓉千里II北の舞姫 芙蓉千里II
須賀 しのぶ

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「ロートス、こっちを見なさないな」
 エリアナの腕が伸びて、長い指が顎をつかむ。むりやり顔をエリアナのほうに向けられて、唖然とした。あまりの無礼に怒鳴りたかったが、青い瞳にひたと見据えられて、できなかった。
「人との時間に永遠はないのよ。必ず期限がある」
「……わかっています」
「いいえ、わかっていない。人と人は、本当に突然終わるわ。いろんな形でね。そしてその時を迎えてしまったら、もうどんなに努力しようが、無駄なのよ。神さまは、どんなことにも必ず期限を設けている。だからいつまでもこのままでいいなんて、思わないことね。あなたが本当に、これで満足しているのなら、それでもかまわないけれど」

須賀しのぶ『北の舞姫 芙蓉千里2』


 待望の『芙蓉千里』の第2部となる新刊が出ていたので、さっそく読んでみた。幼く見える可憐な少女がピストルを持つ装丁も倒錯的な感じでよかった。

 前作では、女郎屋という女の地獄のような場所で矜持をもって生きる華やかな女の世界を描いていたが、第2部ではきな臭い前線で花柳界に咲く花として、政治や歴史の中へ深く関わっていくとともに、人の心を揺さぶる芸術としての舞を求めていく姿が描かれる。

 そういった意味では、前作から雰囲気は大きく異なる。シベリア出兵という、暗い歴史の影に隠れた事件を背景に、波乱を含んだ怒涛の展開が待っている。
 エリアナや黒谷の弟武臣といった魅力的な敵役に打ちのめされ、それを跳ね返していくというカタルシスもあり、相変わらず読み出したらとまらない面白さ。

 以下あらすじ。激しくネタバレ含みます。



 前作で哈爾濱に残ったフミだが、第一次大戦中の好景気も去り治安の悪化する中で、女郎屋「酔芙蓉」もなくなってしまう。売れっ子の芸妓・芙蓉として忙しく飛び回る中で、バレエの名手エリアナの舞に心奪われ、舞うことができなくなってしまう。

 現状を打破しようとするシベリアに出兵する日本軍の慰問を買って出たフミ、酔ったロシア軍に辱めを受けそうになる。そんな彼女をすんでのところで救ったのは山村だった。

 山村と会話もままならず哈爾濱に護送されたフミは遠く大連まで足を運び、舞の名手に教えを乞い、一から基礎を叩き込む。再び舞を取り戻したフミは再度、黒谷の反対を押し切り、ウラジオストックの日本軍の慰問を決意する。

 公演前日、フミは山村に呼び出される。しかしそれは暗殺されたモンゴル王の身辺にいた山村が、王に託され隠したとされる金塊のありかを探る男たちの罠だった。激しい暴力・凌辱の中、

 隙を見てかろうじて逃げ出したフミは、心身ともにぼろぼろの状態で舞台に臨む。踊れるような状態ではないはずのフミは、しかしつかれたように舞い、喝采を浴びる。しかしこの一件を通してフミは決意を固める。芸の道を捨て一人の女として生きると。フミは黒谷のもとへ去った。

 暴力の嵐の中で、わずかな手がかりをもとに、ハバロフスク近郊の「芙蓉の湖」を探し当てたフミは、モンゴル王暗殺の首謀者に仕立て上げられた際に受けた傷を癒す山村と無事再会するのだった。



「天翔けるバカ」(1巻目2巻目)の第一次世界大戦の航空義勇軍といい、「神の棘」(1巻目2巻目)の水晶の夜事件だったり、今回もまさかのシベリア出兵だったり。取り上げられる歴史の1ページが知らないことばかりで、それだけでも興味深く読むことができます。

 前巻から匂わせていたとはいえ、冒頭から「酔芙蓉」が店仕舞いを余儀なくされ、親友のタエが結婚してベルリンに行ってしまっているというショッキングな展開で始まる。

 売れっ子の芸妓として押しも押されぬフミも、要人と枕をともにすることも必要とされるなど、疲労の色が濃い。青空に向かって飛翔するようだった爽やかさと打って変わった重苦しい雰囲気になっている。

 人を別の世界へ引き込む芸術としての舞を求めるというストーリー上、舞のシーンも丁寧に描かれていて、かなり力を入れているのがわかって好きです。


「流血女神伝」のカリエのように、須賀さんの描く少女たちはどんな過酷な状況でも心が折れない。生きようとする力に満ちている。

 しかしフミは辻芸人一座としての暗い過去を背負っている。あっけらかんとした性格でありながら、そこが逆境の中で垣間見える、陰影のあるキャラクターだと思う。

 それでもフミは打ちのめされたままでいない。すべての過去をなげうち、二度までも変身をしてみせる。その姿がとても鮮やかだった。

 草原へ飛び出していったフミと再び交じわることがあるのかはわからないけれど、ようやく過去を吹っ切った黒谷の第3部での巻き返しがあるといいなと思う。


 3部作の連載も始まるようだけれど、第3部は上下分冊になるとも聞いているし、単行本で読めるのはいつになるのか。このときばかりはガラケーが欲しくなります。
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