深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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池波正太郎『男の作法』
男の作法 (新潮文庫)男の作法 (新潮文庫)
池波 正太郎

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 今度、タクシーに乗ったときにだね、やってごらんなさい。運転手が、お客さんが百円くれたとなれば、たとえ百円でもうれしくなって、
「どうも済みません、ありがとうございます……」
 と、こう言いますよ。
 そうすれば、その人がその日一日、ある程度気持ちよく運転出来るんだよ。それで、おおげさかも知れないけれど交通事故防止にもなるんだよ。少なくとも、次に乗るお客のためになっているわけだ。みんながこういうふうにして行けばだね、一人がたとえ百円であっても、世の中にもたらすものは積みかさなって大変なものになるわけだよ。どんどん循環してひろがって行くんだからね。
 だから、そのことを考えて実行することが、
「男をみがく……」
 ということなんだよ。
 ということは、根本は何かというと、てめえだけの考えで生きていたんじゃ駄目だということです。多勢の人間で世の中で世の中は成り立っていて、自分も世の中から恩恵を享けているだから、
「自分も世の中に出来る限りは、むくいなくてはならない……」
 と。それが男をみがくことになるんだよ。

池波正太郎『男の作法』


 その昔、三国志の映像作品に魅せられた私は、歴史小説ばかり読んでいた時期があった。

 当時の私にとってのヒーローは、司馬遼太郎であり吉川英治であって、池波正太郎はおもしろさの面では少し劣ると思っていた。というのもはじめて読んだ池波作品が『幕末新選組』で、『新撰組血風録』や『燃えよ剣』に比べれば、もの足りないと思っていたから。

 しかしそれが大きな間違いであったことは、何年も後に『『幕末遊撃隊』を読んで思い知ることになる。幕末期、一陣の風のように散っていった隻腕の剣士伊庭八郎を描いた、この作品は一人の男がどのように生きるかということを描いた快作だった。

 残念なことに、興味が次第に文学へと移っていった時期ということもあり、読み終えた池波作品は数えるほどしかない。『鬼平犯科帳』ぐらいは読みたいと常々思ってきたが、『マネー・ボール』でふれたまとめブログで、『うらおもて人生録』と一緒に出てきていたので、心惹かれてこの『男の作法』を読んでみようと思った。
 本書は池波正太郎がかつて男にとって常識だったこと、男をみがくということはどういうことかということを友人と編集者に向かって語り下ろしたもの。ぱっと本を開くと、各章の題が料理屋での振る舞いについて語った言葉になっていて目を惹く。

 ところどころ敬語が混じるものの、江戸っ子らしい歯切れの良い語り口調でつづられていて、食通で知られた池波さんらしいうまいものに関する話題に、日常のこまごまとした話題、家庭内の治め方、そして知らぬ間に生き方といった深い問題へと移っていく。一気に読むことができるが、内容は幅広い。

 著者自身が語るように、昔はこういうことは当たり前で、近所付き合いや上役や仲間と飲みにいったりする中で自然と身につけていったんだろうなと思う。そういった付き合いが薄くなって、余裕もなくってしまった現代からみると、やっぱりもったいないし、知らずに大人になっていくことを恐ろしくも思う。吉原の話とかどきどきするしね。

 普段の食事を質素にしても月に一度ぐらいはいいものを食べにことだったり、サラリーマンでも仕事道具には無理してでもいいものを使ってみたり、おしゃれは自分客観視してどのように見せるかを考えることということだったり、身銭を切ることだったり。確かに、かっこいい男というのはそんな感じだよなという気がする。

 感謝の言葉、賞賛の言葉ももちろん大事だけれど、チップという形になることは大きい。それが回りまわっていい効果を発揮する。気持ちよく自然にチップを渡せるような大人になりたいなと思った。節約、緊縮に凝り固まるのではなく、身銭を切ってでも人間を磨いていく機会を持ちたいもの。

 そして最後の死を意識して、残りの人生で何が生きるかを考えるというのは、上で触れた『幕末遊撃隊』で描かれた伊庭八郎の生き方そのものであり、とても懐かしく、時間を無駄にしてないかな、親孝行しないとなと、背筋が伸びる思いがした。
コメント
この記事へのコメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びにきます。
ありがとうございます!!
2011/09/24(土) 20:12:15 | URL | ビジネスマナー #-[ 編集]
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