深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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小林秀雄『考えるヒント4』
考えるヒント 4 (文春文庫 107-5)考えるヒント 4 (文春文庫 107-5)
小林 秀雄

文藝春秋
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 確かに、ランボオは晦渋である。然し、ことに我が国に於て、晦渋な作家を求める事が、どんなに困難であるかを考えてみてはいけないか。習慣というものは恐ろしいものだ。何故、誰も彼もがわかり切った事しか書いていない事に愕然としないのか。進歩的と自称する政治思想、人間的と自称する小説形式、歴史や認識の運動の解明者と自称する講壇哲学、そういうものが寄ってたかって、真正な詩人の追放の為に協力している。言語表現は、あたかも搾木にかけられた憐れな生物の様に吐血し、無味平板な符牒と化する。言葉というものが、元来、自然の存在や人間の生存の最も深い謎めいた所に根を下し、其処から栄養を吸って生きているという事実への信頼を失っては、凡そ詩人というものはあり得ない。

小林秀雄『考えるヒント4』「ランボオ2」より


『考えるヒント3』を読んだ勢いでシリーズを読んでしまおうと思って、こちらを購入した。今までずっと「考えるヒント」の文庫版は5分冊だと思い込んでいたのだけれど、探せど探せど引っかからない。どうやらこちらで完結のようである。

 こちらは今までの3冊とは少し毛色が違う。「ランボオ・中原中也」と副題がついているように、小林秀雄に大きな影響を与えた二人の詩人について書いた文章をまとめたものになっている。

 ところがそれも半分足らずの100ページに過ぎない。残りの半分は小林秀雄訳の『飾画』『地獄の季節』が収録されている上に、「酩酊船」を含むいくつかの韻文詩も収録されている。その点、ランボオの詩集として最も親しまれてきただろう岩波文庫版よりも、少しお得感がある一冊。
 中原中也と小林秀雄は実際に親交があったらしい。だけでなく、一人の女性を小林秀雄が奪う形になったようで、中也の詩に表れている「悲しみ」に、自ら負うところもあったようだ。

 ランボオも中也も何か目的があって詩を書いたのではなかった。富や名声が欲しいわけではなかった。ただ詩を書かざるをえなかった。そんな純粋な詩魂として捉えられているように見える。

 ランボオにはじめて出会ったのは、他にもこういう人は多いだろうけれど、村上龍の『69』から。「錯乱2」の「見つけたぞ/何を?/永遠を、/それは太陽に溶ける海だ。」という引用には、しびれた。それ以来、粟津訳、小林訳、堀口訳、宇佐美訳と詩集を見つけるたびに買っては読んだ。

 それも多分にポーズだっただろう。時々ものすごくかっこいい一節にめぐり合うこともあったけれど、やはり難しかったのだ。読めているという手ごたえはほとんどなかった。

 この4巻は、上に書いたとおり半分は詩集で、収められているものも何かに寄せて書かれたような短いものが多い。しかし、印象に残る言葉も多い。上に引用したのもそんな部分。

 確かに、私もわかりやすさを求めがちだ。けれども晦渋で理解できないものでも、その表現に心動かされることが間違いだったり錯覚だったりするわけでもないのではないかと思わせてくれる。

 わからなくていいやと開き直るのではないけれど、その言葉と向き合って最終的にわからないとなっても、何か感じることが少しでもあれば、それはそれでいいのかもしれない。そんな気分になって、心強く思うところがあった。


 改めてランボオの詩を読んでみると、「飾画」は難解だった。しかし「地獄の季節」はやはりかっこいい。進歩や文明に唾を吐きかける、頽廃的な雰囲気、ぶっきらぼうな言葉に胸が熱くなる。

 時間をおいて読んだランボオは昔と違った印象で、まさかこんなふうに読み直すことになるとは思わなかったけれど、とてもよかった。はじめて「考えるヒント」を手にしてからもう何年にもなってしまったが、このシリーズに出会えたことに感謝したい。
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