深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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小林秀雄『考えるヒント3』
考えるヒント 3 (文春文庫 107-3)考えるヒント 3 (文春文庫 107-3)
小林 秀雄

文藝春秋
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 昨日の事を後悔したければ、後悔するがよい、いずれ今日の事を後悔しなければならぬ明日がやって来るだろう。その日その日が自己批判に暮れるような道を何処まで歩いても、批判する主体の姿に出会う事はない。別な道が屹度あるのだ、自分という本体に出会う道があるのだ、後悔などというお目出度い手段で、自分をごまかさぬと決心してみろ、そういう確信を武蔵は語っているのである。それは、今日まで自分が生きて来たことについて、その掛け替えのない命の持続感というものを持て、という事になるでしょう。そこに行為の極意があるのであって、後悔など、先き立っても立たなくても大した事ではない、そういう極意に通じなければ、事前の予想も事後の反省も、影と戯れる様なものだ、とこの達人はいうのであります。行為は別々だが、それに賭けた命はいつも同じだ、その同じ姿を行為の緊張感の裡に悟得する、かくの如きが、あのパラドックスの語る武蔵の自己認識なのだと考えます。これは彼の観法である。認識論ではない。

小林秀雄『考えるヒント3』「私の人生観」より


『Xへの手紙・私小説論』でも書いたとおり、日本の批評をわかりにくくした元凶のように言われていたのをいいことに、自分には手には負えないだろうと思って小林秀雄はあまり読んでこなかった。

 ところがタイトルに惹かれて何となく手に取った「考えるヒント」は思っていたよりかはずっと読みやすいものだった。そしてそのまま続けて買った「考えるヒント2」はやはり難しかった。だけれど、とてもおもしろかった。

「考えるヒント2」のインパクトがあまりにも大きかったので、なかなか続きを読む力が湧かなかったけれど、今回古本屋で三巻目を安く見つけたら現金なもので、読んでみようという気になった。
 このシリーズは小林秀雄が各誌に発表したエッセイや批評を寄せ集めたものということになるだろうか。内容は多岐に渡る。国学者たちや福沢諭吉などを取り上げた2巻と比べて、講演会などが多く比較的読みやすい部類だろう。

 ベルグソンや柳田國男に触れながら、オカルト的な話題について語った「信ずることと知ること」という冒頭の作品がこの巻全体を方向づけているように思える。

 科学技術の進歩を享受して生活する私たちは、ともすると超常的な体験の話を聞くと、それを素直に受け取ることができない。嘲り笑ったり、あるいは合理的な原因を見つけ出して解釈を加えようとする。

 そういった試みはもちろん重要なことだとしても、その体験に根拠があるか、説明がつくかということにこだわるあまり、その人が体験したという事実を無視しては、大切なものを見落とすことになるのではないかということだ。

 傍から見れば馬鹿々々しいかもしれないが、体験した本人にとって生々しい鮮烈な経験で、心を動かすことがあるというのは想像がつくはず。伝説といったものは、そういった人の心の働きが反映され、洗練されてきたものなのかもしれない。

 小林秀雄はこのことをお化けと口にすると馬鹿にされるが、暗闇に根拠のない不安を覚えることはあるだろうというようなことを語っている。どこからくるともわからない感情に突き動かされることがあるということから目を背けていては、足をすくわれることにもなるだろう。


 小林秀雄の文章は難しい。どれほど掴まえられているかさっぱりわからない。あとから言葉にしようと思っても難しい。しかし時々、強烈な言葉に出会うことがある。人を奮い立たせるかっこよさがある。上に引用したのもそんな一節。もっと自らの行為や体験を大切にしようと思った。
コメント
この記事へのコメント
読書感想の内容に感心しました。
 初めてこちらに書き込みます。貴ブログの内容を読み感心しています。わたしのブログに勝手にBMしました。 
 わたしも、何度目かの挑戦で「史記」を読みつつあります。
 今後とも、どうぞ、よろしく願います。
2011/02/19(土) 06:05:58 | URL | うざね博士 #-[ 編集]
Re: 読書感想の内容に感心しました。
初めまして。拙い文章をほめていただき恐縮ですが、励みになります。
ありがとうございました。こちらこそ、よろしくお願いします。
2011/02/28(月) 00:06:18 | URL | raidou #-[ 編集]
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