深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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遠藤周作『青い小さな葡萄』
青い小さな葡萄 (講談社文芸文庫)青い小さな葡萄 (講談社文芸文庫)
遠藤 周作

講談社
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「みどりの青春か。君、戦争の時、なにをしていました。ぼくはニューエンベルグの収容所にいましたがね、一度あそこで冬を送ったな。窓から、雪が降るのを見てたこともありましたぜ。
 楽しそうに唄を歌っているな。まるで何もなかったみたいじゃありませんか。雪っていう奴は、みんな消してしまうからな。砂のような音をたてて降っていやがる。が仏蘭西の学生はこうやって楽しそうに唄を歌っていられるんだからな。いつも高見の位置にいられるんだからね。それが勝者であり、世界の中で最も良心的な国というわけか。いつかこいつは償われなくちゃならないと、ぼくは何時も思うんですよ。今こうして唄を歌っている女学生たちの顔が、ぼくやエバのように恐怖、怯えで歪まなくちゃならない。それでなきゃ、不合理だ。じゃありませんか。ムッシュー・イアラ」

遠藤周作『青い小さな葡萄』


『神の棘1』『神の棘2』を読んでいて、遠藤周作を思わせるところがあったので、久々に
ふと読んでみようと思った。

 遠藤周作は好きな作家の一人で、歴史小説しか読んでこなかった自分が歴史物じゃなくても小説を楽しめるんだと気づくことになった思い入れのある作家でもあります。

 この『青い小さな葡萄』が文庫になっていることは長い間知らなくて、見つけたとき思わず買ってしまって積読になっていたもの。遠藤周作にとっては処女長編小説にあたる作品ということで言及は多いものの、手軽に読める作品ではなかった。
 リヨンの町で周囲になじめずコンプレックスを抱えて生きる日本人留学生伊原が放浪者のようなドイツ人元兵士ハンス出会うところから物語は動き出す。ハンスは戦時中敵国フランスの少女に助けられた思い出をよすがに、リヨンへやってきたのだった。

 少女の行方を探す二人の前に、伊原と同じ大学に通い、ナチスの強制収容所で心身ともに深い傷痕を負ったポーランド人クロスヴスキイが立ちはだかる。意固地になった伊原の目的は敵同士が助け合ったという美しい青い小さな葡萄のエピソードの捜索からそれ、戦時中の暗い事件へと向かっていく……。

 戦後初のフランスへの留学生となった作者自身がモチーフになっていると思われる主人公はあまりにも卑屈で見ていて辛い。今では外国人に対してここまでの劣等感を意識する場面はないかもしれない。しかし読んでいるうちに、自分の中にも多かれ少なかれあるコンプレックスがさらけ出される気がする。

 サドの研究者に会いに行って、日本人にサドがわかるのかと拒絶される「留学生」(『留学』に収録)を読んで衝撃を受けたことを思い出して、より胸をえぐられる思いがする。

 クロスヴスキイは初め悪魔的な男として現れる。ところがその男が物語の核心で見せる弱い姿はやはり印象的。シニカルで絶望を抱えながら、本当は誰よりも人間を信じたがっている。そんな矛盾をはらんだ存在としての悪魔の描き方が心に残った。


 いくらか図式的な感じがして、遠藤周作をあまり知らない人には面白くないかもしれないけれど、処女長編ながらも遠藤周作らしさが詰まっている。中間小説かもしれないけれど、やはり遠藤周作の作品は好きだ。

 そういえば、これもまた国語の模試か何かの問題で読んでずっと印象に残っている「ステンドグラスのある教会で少女と出会う話」も見つけられていないし、また時間があるときに読んでみたいなと思った。
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