深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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須賀しのぶ『神の棘 2』
神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)
須賀 しのぶ

早川書房
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 乱れのない兵士の動きは、美しかった。日々繰り返される行為の中に、意思はない。一片の感情もないからこそ、彼らの動作は淀みなく、完璧に揃っていた。
 命令には無条件に従う。内容は問わない。なぜならそれは命令だから。自分の意思はない。責任はない。それがSS。それが、ドイツ人。

須賀しのぶ『神の棘 2』


『神の棘 1』に続いて、『神の棘 2』を読み終わる。二ヶ月連続刊行の書き下ろし作品もこちらで完結。

 この2巻では、出世街道を外れたアルベルトが前線へと転戦、ロシアやイタリアでパルチザンの掃討など、危険でありながら正規軍のやりたがらない汚れ仕事を担当する姿が描かれていく。

 一方のマティアスはイタリアで衛生兵として従軍し、支援活動を行う中で、連合軍が救世主でもなんでもないことを目の当たりにし、聖職過程を終えていない修道士の身でありながら死にゆく兵士たちへ聖体の秘蹟を行えないかと考えるようになる。
 そんな中、マティアスと再び出会ったアルベルトはマティアスをローマへ運び、教皇へ謁見させようとする。そして終戦を迎え、アルベルトは戦争犯罪者として裁判にかけられる……。


 前巻までのスローペースが嘘のように、物語は怒涛のように流れていく。前線で正規軍でないアルベルトたちに押し付けられる過酷な任務。疑心暗鬼にかられた連合軍がイタリアで行った歴史ある修道院への爆撃。今まで知ることのなかった第二次世界大戦が目の前に繰り広げられ、のめりこんで読んだ。

 汚れ仕事を担いながら、冷静沈着に行動し、部下を思いやる指揮官としてのアルベルトがかっこいい。冷酷なだけの男から次第に印象が変わっていく。

 そして終章にかけて次々と新しい事実が明らかになっていく。二重三重と待ち構えているどんでん返しには目を瞠る。

 戦争という複雑で、集団的で、政治的な現象の中で、多くの人たちが訳もわからないまま行動を迫られる。自ら考えることをやめ、意志を捨て、命令を遂行するコマとなる。そしてあれは自分の責任ではなかったとして後は口をつぐむ。

 死にゆくものは、誰を責めることもできずに、最後には神を求める。しかし神は沈黙したままだ。ローマ教皇ですら政治的な存在でなすすべもない。

 それはきっとある意味で仕方のないことなんだろう。だが、自らのなしたことから目をそらさず、たとえ不当な手続きだったとしても、その罪を全て粛々と受け入れていく一人の男に胸を打たれる。

 何にもすがらずに、自分ひとりで運命を受け入れていく強さがどこから出てくるのかはわからない。しかしその姿は確かに清らかで、厳かな気持ちになった。


 こちらの作品を気に入られた方は、『洪思翊中将の処刑』を読んでも面白いと思います。
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