深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
須賀しのぶ『神の棘 1』
神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)
須賀 しのぶ,多田由美

早川書房
売り上げランキング : 106685

Amazonで詳しく見る

「よくわからないよ。ええと、じゃあ僕がしたければ、してもいいの?」
「するなとは誰も言えない。しろとも言えない。決めるのはおまえだ。誰かに言われたからとか、神様が駄目だと言ったとか、そういうのはまやかしだ。決断を自分以外のものに委ねてはいけない」
 テオドールは厳しい顔で言った。
「ただ、おまえの決断によって、辛い思いをする他人がいるということを忘れてはいけない。だから、自分がやってしまったことを一度でも後悔したなら、その痛みを死ぬまでずっともっているべきなんだ。悪魔が見えるなら、目を背けず、見ないといけない。カーテンをひいて、明るい家の中に閉じこもっていても、それはいなくはならないんだ」
 ――今でも、あのときのテオドールの表情と言葉をはっきりと思い出すことができる。

須賀しのぶ『神の棘 1』


「スイートダイアリーズ」「芙蓉千里」に続いて、須賀しのぶさんの最新作を手にとってみる。

 こちらは7月と8月二ヶ月連続の刊行となったもの。書き下ろしの作品ということで、一般進出後も精力的に活動されているようで嬉しくなります。

 こちらはナチスの親衛隊SSの青年隊員で、常に冷静沈着なアルベルト・ラーセンと
幼なじみで修道士の熱血漢マティアス・シェルノの対照的な二人を中心にヒトラー統治下のドイツを描きとおした作品。
 1巻では、任務に忠実で出世街道を歩むアルベルトが実兄で修道士のテオドールの変死の調査をしながら、マティアスの所属する修道院を強引に閉鎖に追い込む様を描くことで、道徳裁判というものによってナチスがカトリック教会とどのように対立、勢力を奪って言ったのかが描かれる。

 任務を着実に遂行し優秀な隊員であるアルベルトだが彼の仕事を目の当たりにした妻イルザはショックを受け、次第に精神を病むようになる。そんな折、ユダヤ人への暴動(水晶の夜事件)が勃発し、イルザがユダヤ人を家に匿う事態が発生する。次第に夫婦仲や出世の道に暗雲が立ち込める。

 マティアスはアルベルトに協力したことを恥じ、レギメントという反政府組織の連絡役として活動を行うことになる。そんな中、障碍者の安楽死施設の存在を知る。証拠をつかもうと施設に侵入したマティアスだったが、目の前にアルベルトが現れ連行される。ところが矛先は突然アルベルト自身に向かい……。

 物語のプロローグには、アルベルトが反社会的運動の潜入捜査が描かれていて、完全に同志と成りすました彼が手のひらを返すように組織を崩壊させる姿が描かれる。スパイ映画を見ているような、この冒頭のシーンで冷酷なアルベルトの性格が強く印象づけられ、物語に惹きこまれる。

 だけれどその後の展開は地味だった。ナチスの親衛隊という組織の中で、諜報活動を担った情報組織SDという、およそ知ることのなかった組織。聞き慣れない名前の数々。そういったものを把握していくのが、なかなかに大変。

 当然、口数も多くないアルベルトの容赦ない潜入活動は圧倒されるものがあるけれど、謎めいた部分がおおく、物語的にはあまりにも地味。マティアスは好漢で気持ちのいい人物だけれど、最初から打ちのめされ通しで物語を引っ張っていく力は足りない感じ。


 とはいったもののナチス統治下というやりきれない不条理な状況で、沈黙を守り続ける神としかしそこから離れられない人間を描くという部分は今後の展開に期待させるのに十分。

 作者もたぶんかなり力を入れて書いてる。書くのはきっと大変だったんだろうけど、一般受けとか度外視して、やりたいことを思い切りぶつけられる機会をもらえたのは幸せなんだろうなと勝手に思って、なんとなく一人微笑んでしまったりする。


 今リンクを見てみると発売してから全然間がないのに、もう装丁が変わってますね。何かあったのかしらん。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://deepseafishtank.blog123.fc2.com/tb.php/300-cdba3a8e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。