深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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W. B. イエイツ(編)『ケルト妖精物語』
ケルト妖精物語 (ちくま文庫)ケルト妖精物語 (ちくま文庫)
(1986/04)
井村 君江

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 もし妖精がいなかったら、アイルランドの農民は、これほど豊かな詩情を持ちえたであろうか。ドニゴールの農家の娘たちは、もし大地や海が、そうした美しい伝説やとても悲しい物語によって愛すべきものになっていないとしたら、内地に働きに出かけるときいつもするように、ひざまずいてその海の水に触れるということをするだろうか。老人たちは、もし数限りない精霊たちが、自分たちのまわりにいないとしたら、晴れやかに、こんな話を呟きながら息を引きとることができるだろうか――「湖は泳いでいる白鳥を重荷とは思わない、馬は鞍を、そして人は、その内にある魂を重荷とは思わない」

W. B. イエイツ(編)『ケルト妖精物語』



 19世紀後半にイエイツがアイルランドの民間伝承や詩を集めて出版した二つの書物から妖精に関するものを集めて編集したもの。

 妖精といえばティンカーベルのようなかわいらしいイメージを持っていたが、アイルランドの妖精はより異形のものといった感じが強く西洋版の妖怪といっていいようだ。


 イエイツによれば妖精は女神ダーナの巨人神族が小さくなったものとも、堕天使とも言われる。彼らの悪戯には悪意がなかったため地上にとどまめられたと。彼らは気まぐれで怒りやすいため、「よい人たち(グッド・ピープル)」と呼ばなければいけないという。

 そういった意味で、民間伝承とキリスト教が融合してできた物語が多いのかもしれない。妖精が最後の審判で救われるのかを尋ねさせたり、メロウと懇意になった漁師が水死した猟師の魂を解放しに海にもぐるといった話はそういった特色が濃いものだと思う。
 この本に収録されている代表的な妖精をイエイツに従ってまとめるとこんな感じ。
シーオーク
陸上を群れをなして動き回る小さな妖精。善良ではあるが、人間を誘い込むことがあり、その中でも恐ろしいものに「取り替え子*1」がある。

メロウ
水中に住む妖精。コホリン・ドリューという赤い帽子を失うと水の中に戻れなくなる。

レプラホーン
靴をつくる妖精。妖精たちのダンスですり減る靴を作り続ける勤勉な性格のため、裕福であるといわれる。

プーカ
馬やロバに似た姿をする妖精。乗ったものをあちこちに連れまわしてしまう。

バンシー
女性の妖精。死人が現れる家に現れ、悲しい叫び声をあげるという。


 善人が報われ悪人が罰を受けるという基本線はあるものの、そこは気まぐれな妖精なこと、物語もヴァラエティに富んでいる。それでも人間が死に至るような目に遭うことは少なく、陽気で素朴な物語が楽しい。


 その中でもお気に入りなのは、「糸紡ぎの競争相手」という物語。二人の女性がある好青年との結婚をかけて糸紡ぎ競争をする。その二人の前に女の妖精が現れ、彼女の名前を知っているものが競争に勝つ*2と告げる話。

 話の筋は単純だけれども、ビディーという女性が青年のことを本当に結婚したいと思っているのがわかり自然と肩入れしたくなる。その美しい心を見抜いた妖精が最後に女性の前に現れるところなどはとても痛快で、この話を聞かされたアイルランドの子どもたちも手を打って喜んだのではと思えるほどだ。


 またイエイツによる序文と解説は、想像力を軽視するようになった人間に対する警鐘し、アイルランド文化を高らかに謳い上げるもので、とても興味深い。そこだけでもぜひ読んでもらいたい一冊です。


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