深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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須賀しのぶ『芙蓉千里』
芙蓉千里芙蓉千里
須賀 しのぶ

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「山村さん。ちょっと、見ていてくれますか」
 フミは抱えていた荷物を、近くの街灯の下に置いた。山村が怪訝そうな顔をする。
「なんだ? 花摘みか?」
「いえ、荷物を見るんではなくて、私の芸を見てください。まだ女郎としてお礼ができないから……」
 体の中を荒れ狂う、暴力のようなこの感動を、山村に知らせたい。しかしフミは、それを伝える言葉をもたなかった。
「だから、今の私ができる最高の芸を」
 フミの体が、大きく跳ねる。今のちっぽけな自分が、一番的確に伝えられる方法は、これしかない。
 ひとつの感情以外のものを全て切り捨て、軽くなった体が、軽やかに舞う。
 獅子のように。鷲のように。空に永遠に憧れ、飛ぼうとすることをやめない、人間のように。
 重力の呪縛から逃れた体は跳びあがり、捻られ、そしてたしかに一瞬、飛翔した。
 少なくとも、山村の目にはそう見えた。

須賀しのぶ『芙蓉千里』


『スイートダイアリーズ』に続いて、須賀しのぶさんの一般進出第2作の『芙蓉千里』を手にとってみる。

 こちらは角川書店の携帯小説サイト「小説屋sari-sari」で現在も連載されているものを単行本にまとめたもの。

 この「芙蓉千里」は三部作として構想されているようで、こちらは第1部に当たる。だからといってこの巻だけを読んでも十分に楽しめる作品だった。
 明治時代の終わり、家族に捨てられたフミは女衒屋に連れられてハルビンまでやってくる。同年代の少女タエと売られた先は、ハルビン近郊で中国人を相手にする女郎屋「酔芙蓉」。過酷な環境の中、女郎になることを恐れるタエのために、フミは辻芸人の父親に仕込まれた角兵衛獅子を武器に、タエを「酔芙蓉」初の芸妓に仕立てあげようと奮闘する……。

 この第1部では、辻芸人として各地を転々とした挙句、父親に捨てられた少女が、自分の居場所を勝ち取っていく姿が描かれている。12歳の少女が多感な時期を経て、芸を片手に美しく翔びたっていく姿は痛快だった。

 女郎屋、ということで退廃的な描写もかなり多い。女同士の嫉妬や争い、這い上がろうとしてもそれを阻むしがらみ、緊張関係にある国の人間として他国の人間の目にさらされる環境、「女の地獄」。

 しかし「大陸一の女郎になる」と宣言してはばからないフミをはじめ、掃き溜めのような環境にいながら、そこに生きる女たちが生き様や意地をまざまざと見せてくれ、清々しい気分になる。

 芸妓「芙蓉」となったフミに初めてついた旦那である黒川が自身に触れようともしないのを前に切る啖呵や、おびえてばかりいたタエがフミの夢を引き継ぎ「酔芙蓉」を支える存在になったり、「酔芙蓉」のナンバー1だった千代が次第に衰え、醜態をさらしながら最後まで女郎として死んでいく場面など、強く印象に残っている。


 第1次世界大戦に突入し、身辺もきな臭くなってくる中、彼女たちの身辺がどのように展開していくのか。須賀さんのことなので、きつい展開が待っていくかもしれないが、見たくないようで、やはり続きが気になる。

 サイトでの連載を追ってればよかったなと思ったけれど、どのみち iPhone では読めなかった。単行本が待ち遠しい作品が増えた。


 角兵衛獅子ってこういうのかな。これは確かに大変そう。
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