深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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須賀しのぶ『スイートダイアリーズ』
スイート・ダイアリーズスイート・ダイアリーズ
須賀 しのぶ

角川書店
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おすすめ平均 : 5つ星のうち3.5

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「戻ってきてほしいってさ」
「ばかじゃないの」
「だよね」
 二人は顔を見合わせて笑った。古びた鳥居をくぐり、階段をのぼる。さほど高さはないがそれでも境内の空気は鳥居の外よりも少しばかり冷たい。
「あの人もかわいそうよね」
 階段をのぼりきった素子は、軽く息を切らしながら近くのベンチに腰を下ろした。亜季もその隣に腰掛ける。コートごしにもベンチの冷たさが身に沁みた。
「アキにだって、結局愛してはもらえない。でもいつまで経っても、自分は子供のときみたいに、無条件でいろんな人に愛されていると信じてるんだもの」
 素子の言葉に、ヨシオの子供のような笑顔を思い浮かべる。
 他人に嫌悪感を抱かせようのない容貌を備え、人懐こいヨシオ。彼が幼い頃からどのようにまわりから扱われてきたか。今の彼を見れば、容易に想像がつく。
「きっと一生あのまんまだろうね。かわいそうにね……」

須賀しのぶ『スイートダイアリーズ』


『天翔けるバカ』『流血女神伝』の須賀さんが一般書籍のほうへ進出しているのは聞いていたけれど、2ヶ月連続リリースの『神の棘』など評判もよいようなので、進出第一作のこちらから読んでいきたくなった。

 亜季、有香、素子の高校時代からの仲良し3人組。しかし30台になって、有香こそ表面上は順調な生活を送っているものの、亜季は不倫していた上司に捨てられ左遷される。素子はDV夫との暮らしに疲れ、娘にまで手がまわるのを恐れている。

「死ねばいいのに」と口にするのは有香なのに、この時は素子が亜季に交換殺人を持ちかける。その場の流れだと思っていた亜季だったが、不倫相手の上司が突然死ぬ。殺したのが素子だと知った亜季はにっちもさっちもいかなくなり……。
 正直なところ、人物たちの行動がエキセントリックで、深く人物を知る前に事件が起こっていくので、置いてけぼりになる感じがある。また殺人があるからといってミステリのように派手な推理があるわけでもない。昼ドラのようなどろどろの展開が続く。その点では人を選ぶかもしれない。

 でも本当はとてもおもしろかった。スイーツ(笑)携帯小説(笑)とか言っていても、何のことはない、私自身もそういったどろどろが嫌いじゃないのだ。

 ところどころ挿入される「tea time」として挿入される幕間がいい。高校時代や結婚相手との出会いなどのきらきらと眩しい思い出が描かれている。それが三十歳を過ぎた女性たちの現実にくたびれた感じを引き立てている。大人になって、いい歳になって、取り繕っていてもいろいろと無理がきている。その綻びが隠し切れなくなっている。

 特に有香の話がすごい。いつも3人組の中心にいたはずなのに、物語の脇に追いやられ、自ら選び取った理想の人生を歩んでいたはず。それが音もなくあっという間に崩れ去っていく。その前の高校時代の屋上での天体観測があまりにも幸せで美しくて……。取り返しがつかないのがわかってしまう。

 DV を振るう男をガキだと笑う。けれどもその彼女たちも大人になりきれていない、不器用で弱い少女の部分を抱えて生きている。それが透けてみえて切なくなる。
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