深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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サイモン・シン『暗号解読』
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 ディフィーとエリスの話題は、考古学から、樽の中のねずみがりんご酒の味をよくするといった話にまで及んだ。しかし話題が暗号の領域に近づくと、エリスはさりげなく話題を変えるのだった。訪問が終わり、今から車を運転して帰ろうというときになって、ディフィーはとうとう我慢できなくなり、ずっと頭にあった質問をエリスにぶつけた。
「教えてください。あなたたちは公開鍵暗号を発明したのですか」長い沈黙があった。口を開いたエリスは、ささやくようにこう言った。
「どこまで言ってよいものか……。そうですね、あなたがたの方が私たちよりも多くのことをやった、とだけ言っておきましょう」

サイモン・シン『暗号解読 下巻』


 正月の割引券の期限が切れそうだったのでブックオフへ行った。棚を眺めているとサイモン・シンの『暗号解読』がいつの間にか文庫化されているのが目に留まり、そのままレジに向かった。

 サイモン・シンは取っつきにくい科学の問題を一般向けにわかりやすく紹介するライターとして有名。その作品は、『フェルマーの最終定理』が文庫化されたときに購入して以来になる。

 本書は、文明の最初期にまでさかのぼり、通信の秘密をどうにかして確保し守ろうとする側とその内容をひそかに知り利益を得ようとする側のいたちごっこ的な攻防の歴史を一息にたどりなおすもの。
 「フェルマーの最終定理」は何世紀もの間人々を悩ませ続けてきた難問に深く立ち入ることはせず、それに関係する人間たちのドラマが展開された。この「暗号解読」では文字をあるルールに則って置き換えていく換字式暗号というものがあり、それがどのように改良され、その弱点を探すコードブレーカーの挑戦としてまとめられている。その点で、暗号というと「黄金虫」や「踊る人形」ぐらいしか思いつかない私にも取っ付きやすいものになっている。

 暗号を解読して利益を得ようとするものにとって、暗号が解読されていることを知られては元も子もなくなってしまう。そこで暗号の解読を担う担当者は公けから隠され、歴史の表舞台に上がることはなかった。著者はその人物にスポットライトを当て、隠れたドラマを浮かび上がらせる。

 スコットランド女王メアリのエリザベス女王暗殺計画、第二次世界大戦時、ドイツや日本の通信を完全に解読してしまった連合国の人たち、対照的に天然の暗号といえるナヴァホ族の兵士を利用したアメリカ軍の成功、また執筆者の意図とは関係なく暗号となってしまった古代文字の解読に取り組んだ世界史でなじみの深い人物たち。政治や軍事、歴史を陰で動かしていくダイナミックな展開は、全く飽きさせることがない。

 そして私たちのインターネットを利用した通信を支えている公開鍵方式。この登場によって私たちは安心してインターネット上で情報を交換したり、買い物をしたりと、便利に
暮らしていくことができる。その発見の背後には2つのグループをめぐるほろ苦いエピソードがあったことがわかる。皮肉で悲しいが、しかし居ずまいを正したくなる気にさせる。


 この公開鍵方式の登場により、通信の安全を確保したいと考える側が決定的に勝利したかに見える。しかし磐石に見えるこの方法もブレーカー側の努力によっては破られてしまうのかもしれない。

 そしてこの通信の安全がテロリストを利することになり、治安上の問題に不安を投げかけることになっている。安全な暗号が登場したからといって、そこで問題がなくなったわけではない。技術的・倫理的な課題は多い。いたちごっこはまだ続いているのだ。

 なかなか表には出てこない暗号だが、私たちの生活に深く関わっていて、ある日その基盤が大きく崩れるかもしれない。。そのことを実に楽しく教えてくれる作品だった。
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