深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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伊藤礼『自転車ぎこぎこ』
自転車ぎこぎこ自転車ぎこぎこ
(2009/11/21)
伊藤 礼

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 私はかなり意地が悪い。前方から逆行してくる自転車を認めると、はやばやと道路の左側にぴたりと寄って走る。左端をぜったいに相手に渡さぬようにする。そのとき私の脳裏に「死守」という言葉が浮かんでくる。それでも逆行してくる相手方はさらに右側に寄ってくる。最後にどうなるか。ぎりぎりのところであきらめていやな顔をして道路中心側に膨れて行くのが多い。「それがいやならちゃんと左側通行をしろ」と私の脳味噌は考える。
 ときどき、うっかりして、逆行自転車に気付くのが遅れることがある。そうしてまんまと左側を通過されてしまうことがある。そうすると、「しまった」と思う。大変なミスを犯してしまったような気分に陥る。こういう失敗はもう二度と犯すまい、と心に誓う。心に誓うのも脳味噌の働きである。

伊藤礼『自転車ぎこぎこ』


『こぐこぐ自転車』の伊藤先生の新作が出ていると聞き、急ぎ手にとってみた。

 こちらは前作の『こぐこぐ自転車』同様、自転車に関するさまざまなエッセイや、自転車旅行の紀行文などがつづられたもの。

 前半部分は短いものが多く、雑誌に連載されたものをまとめたもののようで、自転車との出会い、東京近郊での乗車中の出来事、当世の自転車事情などが取り上げられている。
 後半部分は書き下ろし部分で、笹子峠、三河湾、山陰を旅したときの道中記になっている。

 実際に自転車をこぐとき、しっかりメンテナンスをしていれば音は立たないのだけれど、ふしぎと「ぎこぎこ」という擬音はしっくりときて、印象に残るタイトルになっている。

 自転車に乗り始めた話は前著でもあったが、今回はのっけから、自転車をこぎだして2kmで「人生は結局孤独なものだ」と再認識したとあり、思わず噴き出してしまう。

 その文章は「結局は自動車のようにかさばらない乗り物で知らないところをゆっくり走れるのが楽しくて」という自転車の楽しみを端的に表現した言葉で締められ、あっという間に引き込まれてしまった。


 あいかわらず痛快な語り口は健在。自転車を乗りながら、浮かんできた感想が率直に語られている。涼しい顔をして大げさなことをいうのでおかしくてしょうがない。

 しかし、それは自転車に乗っている人ならば多かれ少なかれ思い当たる節があることなので、読み進めている間、絶えずニヤニヤしていた。

 ヘルメットの安っぽさ異様さ、サイクルコンピューターをつけて走っていると常に画面を見たくなる気持ち、愛車を駐めているときの不安な気持ちなどは誰もが感じたことあると思う。

 特に好きなのが「自転車をこいでいる人間は何を考えているのか」という章で、上に引用した文もそこから。

 くだらないといえばくだらない、だが至極生真面目な考察に笑っていると、自らの底意地の悪さが暴かれた気がしてどきりとしてしまう。


 後半の旅行記も飾らない文章で、苦しかったこと、恥ずかしい思いも書かれているのだが、自転車で旅に出たくなる誘いとなる文章になっている。

 日本に三十台しかない自転車で出かけた笹子峠で、通りすがりの何も知らない青年についつい自慢してしまった場面が冷静に分析されていて、かっこ悪いなと思いつつ共感してしまう。

 また山陰の旅で角島での食事から、道中で食べた日本で五指に入るのではないかというほどまずかったカツ丼の話も笑いが止まらなかった。

 その作り方、店内の事情にまで踏み込んで語られるカツ丼は目に浮かぶよう。


 年齢相応に無理をせず、クロネコヤマトや公共交通機関を利用して旅をされている姿をみると実に楽しそう。

 特に今回読んでいて、次に買うとしたらロードバイクがいいなと思っていたけれど、折りたたみ自転車も欲しくなってしまった。輪行が気楽にできるようになると、楽しみの世界が広がるな、と。


 久々にエッセイを読む楽しさを感じた一冊。自転車に乗る人は笑って読めると思う。
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