深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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ヴィクトル・ユゴー『九十三年』
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「二人ともきけよ。ぼくは重要な要件のためにやってきたんだ。われわれ三人のうちのだれかが、きょうの議会で、国民公会にある法案を提出しなければならんのだ」
「ぼくはだめだ」と、モントーが言った。「ぼくは侯爵だったから、ぼくの言うことなど、だれもきいちゃくれない」
「ぼくだって、カプシン僧だったからな、だれもきいちゃくれん」とシャボが言った。
「おれだってだめさ」と、マラが言った。「おれはマラだからな」
 しばらく沈黙が流れた。

ヴィクトル・ユゴー『九十三年 上』


 その名前の割には『レ・ミゼラブル』以外の作品に触れる機会が少ない文豪ヴィクトル・ユゴー。

 この『九十三年』は以前ブックオフで運良く見つけた文庫版。それほど入手困難ではないはずだけれど、これがあるからブックオフ通いはやめられない。

 全集があるだけでもいいとは思うものの、やっぱりちょっと高価。『ノートル=ダム・ド・パリ』ぐらいは文庫で気楽に読みたいものです。
 それはさておきこの『九十三年』はユゴー晩年の作で、フランス革命の最中に起こったヴァンデ地方の反乱を題材にしたもの。

 イギリスの支援を受けフランスに上陸したラントナック侯爵は、王党派の百姓軍を率いヴァンデ地方で反革命の軍を挙げる。

 それに対し、マラ、ダントン、ロベスピエールが操る国民公会は、ラントナックの実の甥であり子爵でありながら革命の理想に共鳴し「市民」となったゴーヴァンのもとへ、彼が師事する僧侶シムールダンを目付役として派遣し鎮圧に当たらせる。

 その戦いの中で、冷酷無比なはずであったラントナック侯爵が自ら危地に飛び込み子どもたちを助けるのを目の当たりにしたゴーヴァンは、捕らえられた侯爵の処置に苦悩することになる……。


 やはりユゴーの文章はものすごく力強く、迫力がある。冒頭、イギリス船クレイモア号の上で鎖を解かれた大砲が船内で荒れ狂う場面は、少し浮いているような感じがするのだが、激しい熱のこもった文章で度肝を抜かれる。

 その後のラントナックの叱責や炎の中に子どもたちを見つけた母親フレッシャールの狂乱した叫びなど、1ページ以上にわたる人物の言葉に圧倒されないところなどない。

 中心となる3人はもちろんのこと、マラをはじめとする恐怖政治の推進者たち、イマーニュス、ラドゥーブといった脇役たちも個性的で活き活きとしている。

 ユゴーの欠点とよく言われる登場人物が全く登場しない説明的で退屈な脱線はあいかわらず健在だが、それをのぞけば本当にすばらしい。


 王党派、革命派。一方が悪で、もう一方が正義。そういった単純な割り切り方はされていない。

 それぞれがそれぞれの思惑や理想に向かって動き激突する。掲げられた理想のもとに多くの血が流される。

 そしてその一方で献身的な行為が生まれる。その行為に心を打たれ、苦悩し、それに応えようとする。

 そこがとても人間らしい。両派の対立の中から、人間が浮かび上がってくる。この革命を作り出したのは紛れもなく人間なのだという感じがする。

 この激動を一時の「あらし」と位置づけ、理想社会の現出を謳い上げるラストは、内容に賛同するかはともかく感動的。この辺りは執筆当時のパリ・コミューンの影響があるんだろう。

わたしが望むのは、精神に対しては自由を、心に対しては平等を、魂に対しては友愛を、ということです。たくさんです! もう束縛はたくさんです! 人間が作られているのは、くさりを引きずるためではなくて、つばさをひろげるためなのです。もう爬虫類のように地面をはいずりまわる人間などたくさんです。わたしが望むのは、幼虫がちょうに変貌をとげることなのです。みみずが生きた花になりかわり、羽をひろげてとびだつことなのです。わたしが望むのは……」

ヴィクトル・ユゴー『九十三年 下』

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