深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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島尾敏雄『死の棘』
死の棘 (新潮文庫)死の棘 (新潮文庫)
(1981/01)
島尾 敏雄

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 それをじっとみていた妻が、私の耳に口をもってきて、「あたしがキチガイになったら、あなたあんなふうに介抱してくれる?」と言ったのだ。

(島尾敏雄『死の棘』)


あらすじ


 幼い子ども二人と夫婦の四人家族に夫の浮気が発覚する。夫は女との関係を清算し家庭を修復しようとするが、妻は時や場所を選ばず発作的に夫を糾問し始める。女の脅迫も始まり一家は住み慣れた家を手放すことになる。夫は妻を医師にみせることにする。しかし妻は入院した病院を抜け出してしまう。そして転居先に現れた女に妻は暴行を加える。退去を余儀なくされた夫は親戚を頼りながら妻を精神科に入院させる手続きをとるのだった。



 夫トシオの浮気発覚から妻ミホの入院までの一家の姿を克明に記録した私小説的な作品。

 全編が妻と夫の口論と言っても過言でないかもしれない。思わず目をそらしたくなるような、息詰まる夫婦喧嘩の連続。逃げ出してしまうこともできない、何の展望も描くことのできない圧倒的な絶望を描いている。

 自分はあなたしか知らないのに、あなただけ他の女と楽しんでずるい、と問い詰められたらぐぅの音も出ないだろうなと感じた。全てを明らかにしなければ気が済まない妻の迫力がすごい。

「わからない、わからない」とひとりごとを言い、部屋のなかにぼんやり突っ立っている。「あなたがにくいのでもないし、まえはあいつがやってこないかととってもおそろしかったのに、それももうどうでもいいの。やってきたっておそろしくないわ。だから、あたし、なぜこうしてじぶんが苦しみそしてあなたを苦しめているのかわからない。ほんとうにどうしたらいいのかしら。ねえ、あなた、おしえて。今あたし何をしたらいいの?」

(島尾敏雄『死の棘』)



 頭では半ば理解しながらもお互いを傷つけずにはいられず、それでも離れることはできないんだろうなと思う。妻の言うことにひたすら従うしかない。突然、新居に移った後で、一家の前に現れた浮気相手に対して妻が暴行をふるったのを呆然と見ていた後、全世界を敵にまわす孤独を感じながら夫婦が寄り添う場面ではほろりとしてしまった。



 陰鬱な場面が続くなかで、両親の口論を「カテイノジジョウ」が始まったという幼い子どもたちの舌足らずな口調が妙におかしい。

 それでも当然ながら子どもたちも物語が進むに連れ大きなダメージを負ってることが明らかになっていく。特になくしてしまったオーバーを下の子のマヤと探しに行くところで、マヤがちらちらと後ろを振り返りながら父親から離れていく場面はすばらしく、とても切ない。



 結婚に当分縁のない私なんかは結婚なんかしないほうがいいかもなんて思ってしまうんだけど、日常のどこに落とし穴があるかはわからないんだよね。この夫婦みたいにいつそこにはまり込むのか。ちょっとミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を思い出したよ。

 個人的に引っかかったのは、語り手が浮気当時の自分の小説を読んで、過去の自分と否応なく向き合わないといけなくなるところ。記録を残すことはそういう面はあるよなと、ブログを書き始めたばかりの私は複雑な気持ちです。でもがんばります。
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