深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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円地文子訳『源氏物語 巻三』
源氏物語 3 (3) (新潮文庫 え 2-18)源氏物語 3 (3) (新潮文庫 え 2-18)
(2008/09)
紫式部

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「一体、物語というものは、誰それの身の上と決めて、ありのままを語ることこそないけれども、よいことも悪いことも、この世に生きてゆく人の有様で、見ても見飽きず、聞いても聞き放しにしてしまえない事実を、またその中で後世にまで語り伝えたいと思う事柄を、心一つに秘めかねて、書き残しておいたのが始まりでしょう。作中の人物を、よいように言うためには、よいことばかり選び出して書きたて、また読む者の気を引くためには、悪いところでも誇張し、ありそうもないほどのことを集めて書くものですが、どちらにしても皆、この世にないことではないのです。異朝の物語にしても、その書きぶりはわが国と同じです。ただ、同じわが国の物語であっても、昔のは今のと違うことであろうし、書き方には深き浅きの差別はありましょう。といって、物語はまるで嘘だ、作り物だと言いきるのは、間違った見方です。仏のまことに尊い思召しでお説きになった御法にも方便ということがあって、悟りを得ていない者は、経文のうちにあちこち矛盾しているところがあるように疑いもするでしょう。方便の説は方等経の中に数多く見られますが、詮じつめれば菩提と煩悩の隔たりを説く一つの主旨に行き着くのです。つまり物語の中で、よいことも悪いこともまことらしくないほど大袈裟に書き換えながら、実は世の中の真実を語っているのもそれでしょう。よいほうにもってゆけば、すべて何でも無駄なものはなくなってしまうものです。」

円地文子訳『源氏物語 巻三』「蛍」より


『巻一』『巻二』に引き続いて、『巻三』読了。

 私が読んだ旧版版には「蛍」から「若菜 下」までの11帖が収められている。リンク先は再版のため収録範囲が異なる可能性があります。

 前巻から引き続き、養女とした夕顔の娘玉鬘を中心とした風雅な宮中模様が描かれる。夕霧、柏木など次の世代も登場しだすものの全体的に大きな事件もなく過ぎていく。
 この巻でも光源氏は玉鬘を養女にしながら手を出そうとしたりと、作者ならずともけしからんと言いたくなってくる。しかし多くの男を悩ませた玉鬘もあっけなく片付いてしまったのは、やや拍子抜け。

 そんな中で、源氏と葵の子夕霧が紫上を垣間見て憧れを抱く「野分」など、何ということも起こらないけれど、季節や貴族の生活を美しく描いた印象に残るものも多い。

 ところが本巻後半に収録されていると「若菜」になると、雰囲気が変わる。女三の宮の降嫁により、紫上との関係がぎくしゃくしはじめる。

 ここで六条御息所の悪霊が再び登場して紫上が病気になってしまう。「葵」の辺りではあまり好きにはなれなかったけれど、死んでもなお未練を断ち切れず登場してくる六条御息所の強烈なキャラクターはおもしろい。

 あまりにあどけないといった感じの女三の宮は恋心を募らせ忍んできた柏木と関係を持ってしまい、順風満帆だった源氏の女性関係に綻びが出始める。


 上に引用した玉鬘と源氏の物語談義は昔も今も変わらないなと思わせるもので、とても興味深い一節。

 また脇役ながら手紙を残して姿をくらます明石の入道や、最後まで身勝手に振り回される明石の尼君のエピソードなどはあわれを誘い印象的。
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