深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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下條信輔『サブリミナル・インパクト』
サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
(2008/12)
下條 信輔

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 近くは注意を向けた対象の変化を、わずかでも敏感に検出するのが特に得意なのです。親近性へのチューニングが、新奇なものの検出を助けたことになります。この「新奇なものを検出する」機能は、時間軸上、または空間軸上での「ポップアウト」現象(特に目立つものが「飛び出して」見えたり聞こえたりする現象)と言い替えることもできます。そうです、「地」から「図」が飛び出す仕組みに他なりません。地と図が互いに相手を強調し合うように、親近性と新奇性も相手を強調し合う仕掛けになっています。
 つきつめていくと、この世のあらゆるものは親近性と新奇性を併せ持っています。遭遇する状況まで考えれば純粋に同じものというのは考えにくい。逆に一〇〇パーセント、細部まで新奇なものだったら、今度こそ知覚できないはずです。
 このように親近性原理と新奇性原理とは、(字面の上では矛盾しても)知覚の生態学的な機能においては、必ずしも矛盾しないのです。

下條信輔『サブリミナル・インパクト』


 下條信輔氏の新しい新書が刊行されていたので急いで購入し読んでみた。

 東大の教養課程での心理学講義をベースに、「人は自分で思っているほど、自分の心の動きをわかっていない」をキーワードにして認知心理学や社会心理学の知見をわかりやすくまとめた『サブリミナル・マインド』。

 意識というものが人の内部で完結するものではないのではないかという問題を提起した意欲作『〈意識〉とはなんだろうか』。

 この2冊の新書を読んだときの衝撃は大きかった。眉唾だと思っていたアフォーダンスに関心を持つきっかけになったのも下條氏の著作だし、私に「心理学って思ったよりおもしろいな」と感じさせてくれた一人。
 本書はタイトルどおり、また著者自身が語るように『サブリミナル・マインド』の続編といった位置づけ。『さよなら、消費社会』で描かれたような強烈な光や音に恒常的にさらされる現代社会が人間にどのような影響を及ぼすかを科学的に考察し警鐘を鳴らすものといっていいかもしれない。

 前意識と呼ばれるような潜在的な過程や情動といった人が意識的に制御できない部分が人間の行動に占める割合が大きいことが再び指摘される。

 そして意図的か否かは問わないとしても、そこに働きかける社会のさまざまな要素が、人々にさらに強い刺激を求めさせるといった循環を生み出し共進化的に社会を変化させていっているのではないか。

 その強い刺激にさらされ続けると、人間は快とする刺激のレベルすら神経的に変化していく。最終的に自らにとって有害なレベルの刺激をも求めるようになるのではないか、「ニューラル・ハイパー・リアリズム」という問題が提起されている。

 広告やマス・メディア、政治といった部分でこの傾向は顕著であり、私たちは本当に自由に選択を行っているのか、本当に自由な選択を求めているのかといった問題にも踏み込んでいく。

 そして最後に創造における暗黙知的な潜在過程が関わっていることを指摘し、潜在過程と顕在過程の間をしつこく往き来することの大事ではないかという試論を展開する。そして再び人間の創造性に希望を託している。

 あいかわらずおもしろかった。人と社会の共進化的な関係、親近性原理と新奇性原理の変奏としての認知過程、人間の自由意志の問題などはとても興味深かった。

 しかし前の二作と比べると、全体的に詰め込みすぎな感じはあって、茫洋とした印象がある。はっきりとしたコンセプトが感じられない点でおもしろさは劣るかもしれない。

 そして全体的に実験の紹介が少ないと思う。そこが物足りない。そのため現代の強い刺激の海に浸っている私にとっては反発心がむくむくと起こってきて、手放しで納得できるような部分ばかりではなかった。私の期待が大きすぎたのもあるだろう。よく見かけるような説教くさいおじさんにはならないで欲しいなと思う。

 うならされるような指摘は随所にあるし、『サブリミナル・マインド』を読んでおもしろいと思った方には続編として読まれてもいいと思う。
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