深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』
海を見たことがなかった少年―モンドほか少年たちの物語 (集英社文庫)海を見たことがなかった少年―モンドほか少年たちの物語 (集英社文庫)
(1995/06)
ル・クレジオ

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 陽光が海に強く照りつけ、冷たい風のおかげでリュラビーは力が戻ってくるのを感じた。彼女はまた嫌悪感を、そして怒りを感じ、それが少しずつ不安にとって代っていった。それから不意に彼女は、断じて自分には何事も起こり得ないということがわかった。それは風であり、海であり、太陽だった。彼女は父親がある日、風と海と太陽について言ったことを思い出した――自由と空間、なにかそんなことについての長い言葉だった。リュラビーは海に突き出た軸先の形をした岩の上で立ち止り、額と瞼にもっとよく光の熱が感じられるように頭をのけぞらせた。血からを取り戻すためにそうすることを彼女に教えてくれたのは父親だった。彼はそれを「陽の光を飲むこと」と呼んでいた。

ル・クレジオ「リュラビー」より


 今年のノーベル文学賞を受賞したル・クレジオ。昔買ったまま積読になっていたので読んでみることにした。

 原題は「モンドほか子供たちの物語」で子どもたちを中心にした8編の短編が収録されている。

 訳者によると著者の第二短編集で、凝った文章から単純平明な作風に移行していく段階のものだという。
 確かに比較的読みやすく、陽光に満ちたあふれたような美しい作品が多い。牧歌的で神話的な雰囲気すら感じさせる。

 その一方で登場してくる子どもたちはどこか孤独で疎外されている感がある。子どもたちの見る世界は美しく、しかし現実感がなく冷たさ・怖さも感じられる。

 特に表題作の「海を見たことがなかった少年」では海へ行ってしまったダニエル少年の世界と元の世界の対比はぞっとするような切なさがある。

 全体的に子どもたちが一度は経験する、イニシエーションのような雰囲気をたたえた作品が多く、とても好きな短編集。

 個人的には「リュラビー」「水ぐるま」「海を見たことがなかった少年」「アザラン」などがおすすめ。
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