深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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ヨーゼフ・ロート『果てしなき逃走』
果てしなき逃走 (岩波文庫)果てしなき逃走 (岩波文庫)
(1993/09)
ヨーゼフ ロート

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「そして今こそ金儲けをしなければならない時なのだ。この社会秩序の中では、ぼくが働くことなど重要ではない。しかしそれだけに、ぼくが収入を得ることは一層必要なのだ。収入のない人間は名前のない人間か、あるいは肉体のない影のようなものなのだ。自分が幽霊のように感じられてくる。これは右に記したことと少しも矛盾しない。ぼくは自分の無為のために良心の呵責を覚えるのではなく、他のすべての人たちの無為には十分報酬が支払われているのに、ぼくの無為は一文の収入にもならないからこそ、呵責を覚えているのだ。生きる権利は金によってしか得られない」

ヨーゼフ・ロート『果てしなき逃走』P.141)


あらすじ


 第一次大戦後、ロシアに潜伏していたオーストリア兵士トゥンダは故郷へ向かう。彼を捕らえた赤軍部隊を率いる女性ナターシャと恋に落ち、彼は革命に身を投じる。革命後、二人の心はすれ違い、彼は別の女性と地方に移った。しかしその地を訪れた仏人女性に婚約者イレーヌの面影を見た彼は全てを捨てウィーンに戻る。兄のもとへ身を寄せた彼だが、婚約者の目撃情報を頼りにフランスへ向かう。次第に貧窮する生活の中で婚約者と再会する彼だが、婚約者は彼のことに気づきもせず去っていく。



 一年ほど前にブックオフの100円コーナーで見つけ、聞いたこともない作家だったので散々迷った挙句、タイトルの魅力に抗することができず買ってしまった本書だが、ようやく読み終わることができた。結果的には買っておいてよかった。

 作者はオーストリア・ハンガリー帝国に生まれ、第一次世界大戦に従軍した後、ウィーンでジャーナリストとして活躍したユダヤ人。解説によると、この作品は1926年に書かれたらしく、後にナチスの手を流れてフランスで客死する著者の生涯を予見する内容ということで知られるそうです。


 文体は簡潔であまり感情を交えないストイックなものだが、ところどころで故郷を強く求めていることがわかる。カスピ海沿岸のバクーで職を持ち妻もありながら、毎日のように港に通うところなどはとても切ない。

 ユダヤ人であるということや、解説にもあるように第一次世界大戦で解体されたオーストリア・ハンガリー帝国に多民族共存の理想を見出していたということで、作者は故郷を求め続けていたようだ。

 故郷を求め各地をさすらう主人公は、共産主義にも西洋の資本主義にもなじめない人間であるために、その社会の抱える問題を洞察していく。ソ連では人々はシステムの権力維持のために人間的な生活を失い、フランスでは無気力な貴族たちが退屈を紛らわすために刺激を求めているのを皮肉的に描いている。。

 そして探し続けていた婚約者には認識されず、ロシアに自分を待っている人間がありながら、何ら確実なものを持たず故郷に憧れ貧窮する余計者としての自分をよしとする主人公の姿は悲しく衝撃的だった。



 余談ですが、得意だった世界史の知識がごっそり抜け落ちているのがショックです。
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