深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
(2000/09)
ジャレド ダイアモンド

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銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
(2000/09)
ジャレド ダイアモンド

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 ニューギニアとメソポタミアの肥沃三日月地帯からはいろいろと教えられることが多い。まず、ニューギニアの狩猟採集民は、肥沃三日月地帯の狩猟採集民と同じように、自分たち独自の方法で自発的に食料生産をはじめていた。しかしニューギニアの農業は、栽培化可能な穀類やマメ類、家畜化可能な動物が野生種として生息していなかったために、高地に居住していた人びとをタンパク質不足におとしいれてしまった。栽培化可能であった根菜類が高地では充分に成長しない品種であったことも、ニューギニアの農業の足かせとなった。とはいえ、ニューギニア人が自分たちの生活環境に分布している動植物について無知だったわけではない。彼らは、今日地球上で暮らすどの民族にも負けないくらい、自分たちが入手可能な野生動植物について充分な知識を持ち合わせていた。その点を考慮すると、ニューギニア人は、栽培化に値する野生植物はひとつ残らず見つけて、試せるものは試したと推測できる。サツマイモが伝わったときにニューギニア人がどうしたかを見れば、新種の作物を自分たちのものにする能力が彼らにあったことは明らかである。今日のニューギニアにおいても、新しく伝わった農作物や家畜を真っ先に手に入れられる部族や、そうしたものを取り入れようとする意欲のある部族の人びとが、新種の作物の受け容れに意欲的な文化的土壌のなかで、そうする意欲のない部族や新しい作物を入手できない部族を犠牲にしながら、自分たちの農耕エリアを拡大している。つまり、ニューギニアの人びとが独自に誕生させた食料生産システムの展開が制約された原因は、この地域の人びとの特性にあったわけではなく、この地域の生物相や環境要因にあったのである。

ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄 上巻』


 進化について調べていたときに著者の名前を知って、ピューリッツァー賞受賞ということもあり読んでみたいと思っていた一冊。

 本書は進化生物学の専門家である著者があるニューギニア人の発した「なぜ私たちは何ももたないのか」という問いに答えようとしたもの。

 その問いは富や権力の偏在がなぜ存在するのか、より端的にはある集団だけがタイトルにもなっている「銃・病原菌・鉄」を持ち、他集団を席巻することができたのかと言い換えられる。

 著者がこの人類史の難題に挑むのは、この差異はある人種が生物学的に優れているから生じたという説明がついてまわるからだ。そして人種差別を正当化するような発言を招いている、そういった問題意識がある。
 著者の答えははっきりとしている。それは「歴史は、異なる人びとによって異なる経理をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」というものだ。

 この結論を導くために著者がとった方法は、現在に生きる人間と生物学的に同じ種であるヒトが登場し、世界の各地に移動が完了した時代までさかのぼるというものだ。そして、人類のたどった足跡を一息に追っていく。

 その最大の要因は食料生産、つまり狩猟採集型から農耕牧畜型の生産形態へ移ったことだという。

 この移行により人類は定住生活を開始し、収穫物の貯蔵は集団の人口密度、規模を大きくした。そして食料生産以外に従事する専門職(特に兵士)を抱えることを可能にした。大きくなった集団は複雑な政治システムを必要とし、その管理を効率化するために文字を生んだ。

 また野生動物の家畜化は、良質なタンパク源となるだけでなく、人間の生産を助ける大きな力を与えた。また馬の家畜化は強大な軍事力となった。そして家畜からヒトへと移った感染症は、その免疫をもたない集団を壊滅させるほどの脅威となった。

 世界で最初に農耕が始まったとされる肥沃な三日月地帯では、野生の穀類や家畜化可能な動物に恵まれていた。ところがアメリカ大陸やオーストラリア大陸、ニューギニアなどでは栽培に適した植物が少なく、家畜化しやすい動物もいなかった。

 またユーラシア大陸は東西に長いことが幸いし、農耕法などの伝播を容易にした一方、南北に長いアメリカ大陸などでは緯度による気候の変化が伝播の大きな障害となった。

 この地理的な差、環境的な違いが、一部の集団に対して農耕牧畜型の社会への移行を容困難にし、地理的に恵まれいち早く移行が可能だった集団に席巻される結果になったのだという。


 長い間疑問だったことが明快に語られていくので、とても興味深く読めた。

 これだけ複雑な問題をマクロな視点から扱いながら、説得力を失わないのがすごい。人類が世界に行き渡ったときにはほぼ決まっていたことと現代社会の問題とがつながるとは思っていなかった。

 下巻に入ると補論といった感じで、個々の例を取り上げていくが、説明の枠組みは変わらないのでやや間延びしている気がしないでもなかった。

 それでも突っかかることなく読めて楽しい一冊だった。そして色々と考えさせられた。

 もし緯度の変化が食料の生産にそれほどクリティカルな影響を与えるなら、地球温暖化が進行すれば想像していたより大きな影響があるかもしれない。

 また全く免疫のない病原菌によっていくつもの人間集団が消滅してしまったというのには驚いた。今の日本では大規模な感染症を意識することは少ないけれども、パンデミックの恐ろしさを改めて感じた。
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