深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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ロジャー・R・ホック『心理学を変えた40の研究』

 彼らの主張では、私たちが寝ている間、脳幹にある脳の一部分が、周期的に活性化され、電流を発生させる。この脳の部分というのは、私たちが起きている時、体の動きや感覚器官からの入力情報を処理することに関わる部分である。眠っている間、私たちの感覚と運動能力は停止するが、脳内のこの部分は停止しない。このことが、ホブソンとマッカレーが言う、神経を流れる電流による意味のない表出へとつながる。こうした電流の一部は、思考したり推論したりする、高度な機能を持った脳内のほかの部分にも届く。すると、脳は電流を統合し、そこからなにか意味を読み取ろうとする。このために、イメージや思考、さらに筋書きのあるストーリーさえもが作り出される。目覚めてからこの精神的作用を覚えていると、私たちはこれを夢と呼び、さまざまな意味をそれに与えようとする。しかし、ホブソンとマッカレーに言わせれば、そもそも夢に意味などないのである。

ロジャー・R・ホック『心理学を変えた40の研究』


 今ではだいぶ変わってきたのかもしれないけれど、一般の心理学のイメージと実際の心理学のイメージは少し違うところがあると思う。いざ授業を受けてみると、錯視図形や動物実験の話になって、きょとんとするとか。

 一見「心」に取り組んでいるとは思えない奇妙な形になっているのを理解するには、やはり心理学史を知るのが手っ取り早いだろう。客観性・検証可能性を担保しながら心を研究するといった難しい問題を解決するために、たどった道筋はそれ自体興味深いものがある。

 とはいえ、なかなか取っつきやすいものも少ない気がする。流れとしてではなく、心理学に大きな影響を与えた研究を紹介するといった形式は珍しいなと思ったけれど、タイトルを見てすぐにおもしろそうだなと思った。
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W. B. イエイツ(編訳)『ケルト幻想物語』
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井村 君江,W・B・イエイツ

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「おおどうか、私の哀れな魂に慈悲をおかけ下さい」と司祭は懇願した。
「おや、何だと! では、おまえにも魂があると言うのか」天使は言った。「どうしておまえは魂を見つけたのか、言ってみるがよい」
「あなたが姿を現わされてからずっと、魂は、私の中で打ちふるえております」司祭は答えた。「以前に魂のことを考えなかったとは、私はなんと愚か者でございましたろう」
「まったく愚か者だ」天使は言った。「もし、学問や知識が人間に魂があることを教えないのなら、それはいったい何の役に立とうか」
「おお、貴方様」司祭は言った。「私が死ぬ運命にあるのでしたら、どうぞ教えてください。いったいどのくらいで天国に着くのでございましょうか?」
「お前は決して天国に着けはしない」天使は言った。「お前は天国の存在を否定しているではないか」
「では、私は煉獄にまいるのでございましょうか?」
「おまえは、煉獄をも否定している。おまえは、まっすぐに地獄へ堕ちねばならぬ」と、天使は言った。
「しかし貴方様、わたしは地獄も否定しております」司祭は応じた。「だから、あなたはわたしを地獄へ送り込むことはできません」

W. B. イエイツ(編訳)『ケルト幻想物語』「司祭の魂」


 このブログを始めた頃にイエイツの『ケルト妖精物語』のことを書いた。この『ケルト幻想物語』はその姉妹編になる。

 というか、もともとはイエイツがケルトの民族伝承を集めた2冊の本をまとめた。その訳書から文庫化の際に、妖精に関するものを抜き出したのが前者、その残りをまとめたものが本書ということになるらしい。

 そもそもこの本を手に取ることになったのは『燃えあがる緑の木』でイエイツに興味を持ったことと、某18禁サウンドノベル(のアニメ)でクー・フーリンのことを知ったからである。だから、本当はこちらが目当てだったのだけど、当時『ピーター・パン』を読んだので『妖精物語』から手をつけたのだった。
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須賀しのぶ『スイートダイアリーズ』
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「戻ってきてほしいってさ」
「ばかじゃないの」
「だよね」
 二人は顔を見合わせて笑った。古びた鳥居をくぐり、階段をのぼる。さほど高さはないがそれでも境内の空気は鳥居の外よりも少しばかり冷たい。
「あの人もかわいそうよね」
 階段をのぼりきった素子は、軽く息を切らしながら近くのベンチに腰を下ろした。亜季もその隣に腰掛ける。コートごしにもベンチの冷たさが身に沁みた。
「アキにだって、結局愛してはもらえない。でもいつまで経っても、自分は子供のときみたいに、無条件でいろんな人に愛されていると信じてるんだもの」
 素子の言葉に、ヨシオの子供のような笑顔を思い浮かべる。
 他人に嫌悪感を抱かせようのない容貌を備え、人懐こいヨシオ。彼が幼い頃からどのようにまわりから扱われてきたか。今の彼を見れば、容易に想像がつく。
「きっと一生あのまんまだろうね。かわいそうにね……」

須賀しのぶ『スイートダイアリーズ』


『天翔けるバカ』『流血女神伝』の須賀さんが一般書籍のほうへ進出しているのは聞いていたけれど、2ヶ月連続リリースの『神の棘』など評判もよいようなので、進出第一作のこちらから読んでいきたくなった。

 亜季、有香、素子の高校時代からの仲良し3人組。しかし30台になって、有香こそ表面上は順調な生活を送っているものの、亜季は不倫していた上司に捨てられ左遷される。素子はDV夫との暮らしに疲れ、娘にまで手がまわるのを恐れている。

「死ねばいいのに」と口にするのは有香なのに、この時は素子が亜季に交換殺人を持ちかける。その場の流れだと思っていた亜季だったが、不倫相手の上司が突然死ぬ。殺したのが素子だと知った亜季はにっちもさっちもいかなくなり……。
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幸田文『流れる』
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幸田 文

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 さすがに疲れていた。疲れすぎていた。瞼が重くなっても眼が奥が明けっぱなしになっている。からだじゅうぐんなりしているのに鼻が起きている。巻きなおした時計が兵隊の行進のようだ。なぜ自分はここにいつこうとする気があるのか、こんなよくもないうち! 寝返ると新聞がごそごそ云う。紙屑だ。ああいやだあの焚き口、庇が四方から迫ってそのあいだに畳一畳分の空に星が高くまたたいていたっけ。そうだ、ふしぎにここの庇と庇のあいだに自分のいるところがあるように思う。なぜだか知らないけれど、狭いその庇の下の隙間がいちばん安全で自由で、空へ向って伸びのできる気楽さがあるような気がするのだった。

幸田文『流れる』


『猿のこしかけ』に収録されている「旅がえり」という随筆集に「川」と題する作があった。ですます調で書かれたその短い文章に次のような一節があった。
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幸田文『猿のこしかけ』
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 はじめから懲らすのが目的だから、なるべくこわがらしてやれというつもりだったが、なにせ犬は数が多いし、中庭だからそう広くはないし、こっちはめったに持ったことのない武器――しない・木剣は武器類に入れたい感じなのだ――をふりまわして生きものを叩くのだ。犬もこわいだろうが、こちらも上ずって当りほうだいの、力加減などありはしなくなった。先夜の父へのようにしないに噛みつくのはいないけれど、打たれるとくるりとひっくり返っておいて下から牙を剥くやつがいて、ぶるっとする。だからいよいよ上ずってさっと散る。とうとうそこで私は坊主枕型をがんとやった。大仰な声をあげた。二度目に又そこの入口へ迫ったとき、やはり彼がいて、その彼はよほど必死だったのだろう。あのぶざまに短い手足をもがいて、雨戸の横桟をたよりに六尺の戸をのぼると、向う側へころがり落ちた。どうやってのぼったか、見ていたくせにまるで奇蹟だった。竹垣のほうの入口は支柱が倒れて、そこから犬どもはみな逃げた。そして私と弟が息を切らしてまだはあはあ云っているのに、はや表玄関のほうでは喧嘩になっていた。格子が締まっているのに、その外でむだな啀みあいをしているのである。懲りるも何もあったものではない。むしろ私たちの負けである。

幸田文『猿のこしかけ』「春の犬を追う」より


『木』がとてもよかったので、積読になっていたこちらを引っ張り出してきた。

 200ページ程度のこの一冊には、「猿のこしかけ」と「旅がえり」と題する随筆集が収録されている。

 猿のこしかけは wikipedia によると、木の幹に棚状に傘をつけるキノコの総称だという。「あとがきにかえて」という文章で、著者は少女時代にこのキノコをよく見かけ、汚らしいと思いながら、忘れがたいと語っている。そして北海道で再び猿のこしかけを見つけ、懐かしいといったところ、材木屋にとっては木の養分を吸う厄介者だと聞いたという。そんな名前をつけたのはばからしいが悪くないとも。
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