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ディフィーとエリスの話題は、考古学から、樽の中のねずみがりんご酒の味をよくするといった話にまで及んだ。しかし話題が暗号の領域に近づくと、エリスはさりげなく話題を変えるのだった。訪問が終わり、今から車を運転して帰ろうというときになって、ディフィーはとうとう我慢できなくなり、ずっと頭にあった質問をエリスにぶつけた。
「教えてください。あなたたちは公開鍵暗号を発明したのですか」長い沈黙があった。口を開いたエリスは、ささやくようにこう言った。
「どこまで言ってよいものか……。そうですね、あなたがたの方が私たちよりも多くのことをやった、とだけ言っておきましょう」サイモン・シン『暗号解読 下巻』
正月の割引券の期限が切れそうだったのでブックオフへ行った。棚を眺めているとサイモン・シンの『暗号解読』がいつの間にか文庫化されているのが目に留まり、そのままレジに向かった。
サイモン・シンは取っつきにくい科学の問題を一般向けにわかりやすく紹介するライターとして有名。その作品は、『フェルマーの最終定理』が文庫化されたときに購入して以来になる。
本書は、文明の最初期にまでさかのぼり、通信の秘密をどうにかして確保し守ろうとする側とその内容をひそかに知り利益を得ようとする側のいたちごっこ的な攻防の歴史を一息にたどりなおすもの。