深海魚の水槽
読んだ本のメモなどを残していく予定です。
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カルデロン・デ・ラ・バルカ『驚異の魔術師』
驚異の魔術師 ほか一篇 (平凡社ライブラリー)驚異の魔術師 ほか一篇 (平凡社ライブラリー)
(1997/04)
カルデロン デ・ラ・バルカ

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歌声
 人のこころはかならずや
 愛の炎で燃え上がる。
 ただただ生きて行くよりも
 人を愛するほうが活気づく。
 愛から高い評価を受けるのは
 この生き方を知るもののみ、
 樹幹や花や鳥がそうであるように、
 ゆえにこの世の偉大なる栄光とは……
一同
 愛、愛。

カルデロン・デ・ラ・バルカ「驚異の魔術師」より


「ゲーテとの対話」でゲーテが賞賛している作家のうちで、スコットやヴォルテールなど未読の作家も多いのだが、たまたまカルデロンは手許にあったので読んでみた。

 カルデロンは17世紀スペインで活躍した劇作家。本書にはかなり多作だったらしい作者の作品の中から、殉教した聖人伝説をモティーフにした宗教劇“驚異の魔術師”と、名誉のために命を惜しまない人間たちが繰り広げる「<マント>と剣の喜劇」から“淑女「ドゥエンダ」”の二篇が収められている。

“驚異の魔術師”はキリスト教迫害時代のローマ帝国領アンティオキアが舞台。主人公シプリアーノは全知全能の神の存在を求め学問に打ち込む青年。友人二人を相手にしない女性フスティーナに掛け合うところ、彼自身も恋に落ちる。彼女はキリスト教徒だった。主人公は悪魔と契約を結び一年かけて魔術を学ぶ。しかしフスティーナの堅い信仰の前では通じず、彼が呼び出すことができたのは影法師だった。彼女を守ったのが全知全能の神であることを知った彼は、キリスト教に改宗し、キリスト教徒であることが露見したフスティーナとともに殉教するというもの。

 死を恐れることなく殉教し天国で結ばれることになる主人公たちの姿は美しいけれども、あまりにも清潔すぎて少し退屈な感じがする。特にヒロインの魅力がもう一つ。神の存在をおぼろに感じながらはっきりとつかめない青年と神に気づかせないようにする悪魔との対話は面白いのだが。

 むしろ道化である主人公の下男二人が、ヒロインの下女を一日ごとに代わり番こで愛する取り決めをする関係のほうが楽しめる。
[カルデロン・デ・ラ・バルカ『驚異の魔術師』]の続きを読む
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高階秀爾『続 名画を見る眼』
名画を見る眼 続 (2) (岩波新書 青版 785)名画を見る眼 続 (2) (岩波新書 青版 785)
(1971/05)
高階 秀爾

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 つまり、印象派の画家たちは、あまりにも徹底して写実表現を求めた結果、絵画による写実表現の限界を明からさまにしてしまったと言ってよい。光の表現と空間設定と、その両者を同時に完全に実現することができないといういわば絵画本来の宿命のようなものが、印象派の大胆な実験によって明らかになったのである。
 とすれば、印象派に続く世代の画家たちが、絵画とは何かということをあらためて考え直すようになったのも当然のことと言えるだろう。そして、その結論は、ゴーガンの弟子であったモーリス・ドニの次ぎの言葉に要約することができる。
「絵画とは、戦場の馬とか、裸婦とか、その他何らかの対象である前に、本質的にある一定の秩序で集められた色彩によって覆われた平坦な面である」

高階秀爾『続 名画を見る眼』



 前作を読んでから読もうと思いながら半年以上経ってしまった。

 本書はファン・アイクからマネまでの絵画史をたどった『名画を見る眼』の続編。前作に続き、モネからモンドリアンまでの14人の画家を紹介しながら、近代絵画の流れを解説している。

 私はいつも絵画に憧れを抱いていたものの、描くほうも見るほうもからっきしだめで。昔この本でも紹介されているゴッホの「アルルの寝室」を見せられて、「違和感ない?」と聞かれたこともあるんですが、何がおかしいのかわからなかったぐらいです。

 しかし、著者の本はとても読みやすく刺激的で、読み始めたら止まらない。難解な20世紀の絵画がどのような意図に基づいて描かれているのか、なぜそのような方法をとったのかを丁寧に解説してくれている。
[高階秀爾『続 名画を見る眼』]の続きを読む
エッカーマン『ゲーテとの対話 下』
ゲーテとの対話 下    岩波文庫 赤 409-3ゲーテとの対話 下  岩波文庫 赤 409-3
(1969/01)
エッカーマン

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「とにかく、」とゲーテはつづけた、「国民的憎悪というものは、一種独特なものだ。――文化のもっとも低い段階のところに、いつももっとも強烈な憎悪があるのを君は見出すだろう。ところが、国民的憎悪がまったく姿を消して、いわば国民というものを超越し、近隣の国民の幸福と悲しみを自分のことのように感ずる段階があるのだよ。こういう文化段階が、私の性分には合っている。そして私は、六十歳に達する前から、すでに長いあいだ、そういう段階に自分をしっかりおいているのだよ。」

エッカーマン『ゲーテとの対話 下』


 ちょっと駆け足になってしまってもったいなかったが、連休中に読了することができた。上の引用は、ニーチェが影響を受けたという文化と野蛮に関する対話から。世評に惑わされず自らの信念に従ったゲーテの力強い姿が出ているところだと思います。

 本書はエッカーマンによるゲーテとの対話録の三巻目。(上巻中巻はこちら)前巻でゲーテに出会ってから彼が死ぬまでの10年を一通り振り返っていたが、本書ではゲーテの著作の一部をフランス訳をした友人ソレ氏の手記も交えながら、そこにおさめられていない対話を収録している。

 まだまだこんなに面白い内容が収録されずに残っていたのかと驚くほど、本巻はおもしろかった。その内容は多岐に渡るが、舞台芸術のことや演劇論、フランスのロマン主義に関する動向などについての意見といった文学面の記述が多い。

 ソレ氏の手記は事務的な書き留めが多く退屈だが、別の人間の手になるものが入り込むことによって、エッカーマンがどれほどゲーテという人物を活きいきとよみがえらしているかを痛感した。

 エッカーマンはゲーテの遺稿編集者という立場から有利だったのかもしれないが、ゲーテの生の言葉を残すことができたのには驚く。ゲーテという人間を目の当たりにしているかのように描き出す人間がいたことは幸せなことだと思う。
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エッカーマン『ゲーテとの対話 中』
ゲーテとの対話 中 (2) (岩波文庫 赤 409-2)ゲーテとの対話 中 (2) (岩波文庫 赤 409-2)
(1968/01)
エッカーマン

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「これからも人は、家畜に餌をあたえ、人間に飲み物や食べ物を好きなだけあたえてくれる者を神として崇拝するだろう。しかし私は、この世に生みふやしていく力をあたえた者を、神として崇拝するのだ。その力の百万分の一だけでも生命があたえられれば、世界は生物でいっぱいになり、戦争も、ペストも、洪水も、火事も、その世界をどうすることもできない。これこそ私の神だ!」

エッカーマン『ゲーテとの対話 中』


 上巻(エッカーマン『ゲーテとの対話 上』)に続いて、中巻まで読了。中巻では、1828年からゲーテが没する1832年までの対話が収められている。

 その内容は、上巻に続いて「色彩論」を読んで議論を交わしたり、ゲーテ畢生の大作「ファウスト」の第2部を構想などを語り合う場面が描かれる。その他に、ゲーテの息子のイタリア行に筆者が同行した際の印象が描かれている。

 この対話が行われた当時のゲーテは80歳前後であるのに、全く衰えを感じさせず、健康そのものといった感じで仕事に打ち込んでいるのが印象的。上に引用した神に対する考えも、ゲーテの生命力の強さを感じるところです。

 死の前年まで「ファウスト」を構想していて、その進行状況を語りながら、今読むことのできる姿に近づいていくところもおもしろいです。
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シオラン『告白と呪詛』
告白と呪詛告白と呪詛
(1994/12)
シオランCioran

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 人間という人間に、うんざりしている。それでも、私は笑うのが好きだ。そして、私は、ひとりでは笑うことができない。

シオラン『告白と呪詛』


 シオランについては以前どこかで紹介されたときに非常に興味をそそられたのだが、なかなか手にとれないできた。図書館で本書を見つけて見返し部分を開いたときに飛び込んできた上の引用文に強く惹かれ読んでみることにした。

 シオランはルーマニア生まれパリで没した20世紀の思想家。その著作のほとんどが哲学的な断章かエッセイであるらしい。本書はかなり晩年の作で、アフォリズムや数行の文章がいくつも並べられている。


 その内容はひたすら毒を吐きまくるもの。身も蓋もなくなるような痛烈な言葉が連続している。かといって不快に感じるようなものは少なく、引用文のようにユーモアを感じるような逆説的な文章も多くて笑ってしまうところもある。
 
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エッカーマン『ゲーテとの対話 上』
ゲーテとの対話 上   岩波文庫 赤 409-1ゲーテとの対話 上 岩波文庫 赤 409-1
(1968/01)
エッカーマン

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 「木の葉っぱにしたって、寸分違わぬ葉など二枚とないといわれるぐらいだから、千人の人間の中にだって、その心ぐみや思考方法においてぴったり一致する者など二人といないだろう。こうと仮定すれば、敵の数が多いことに驚くというよりは、むしろこれほど多くの友人や味方を持っていることを驚く方が当然だよ。」

エッカーマン『ゲーテとの対話 上』)



 本書は30歳ぐらいの青年エッカーマンがゲーテに出会ってからゲーテが死ぬまでの約十年に渡る対話をまとめたもの。この上巻では筆者の生い立ちからゲーテとの出会い、そして1827年までの交際の内容が記録されている。今はようやく上巻を読み終えたところ。

 下巻の解説によると、ニーチェはルター訳聖書と「意志と表象としての世界」、そして本書の3つに影響を受けたということで有名だったらしい。その他にも多くの愛読者を生む本書の評判を聞き、まだゲーテの青年期までを描いた自伝「詩と真実」も読めていない私だが手にとってみた。

 上の引用は今朝の中日新聞にも取り上げられていたが、この本の中には印象深いゲーテの言葉がいくつも収められている。抜書きしただけでも結構な量になってしまった。
[エッカーマン『ゲーテとの対話 上』]の続きを読む
佐々木正人『アフォーダンス―新しい認知の理論』
アフォーダンス-新しい認知の理論 (岩波科学ライブラリー (12))アフォーダンス-新しい認知の理論 (岩波科学ライブラリー (12))
(1994/05)
佐々木 正人

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 現在でも多くの知覚心理学者がそうであるように、彼も、日常的に体験している「あたりまえの見え(方)」ではなく、錯視などのように、普通の見えが歪められた状態を実験的に分析して、そこから「あたりまえの見え」について考えるというアプローチの方法をとっていたわけである。
 (中略)
 フライトシュミレーたーの作成、空中で敵機を発見する知覚的能力の分析、パイロットの候補者となりうるすぐれた知覚能力を持つ者を選考するこなどが彼に与えられた任務だった。そこでギブソンがまずショックを受けたのは、「あたりまえの見え」が実現している素晴らしさであった。

佐々木正人『アフォーダンス―新しい認知の理論』



『レイアウトの法則』が消化不良だったので、あらためてこの本を手にとってみた。この本は1994年に出版されたもので、アフォーダンスを扱った一般書の中でも最も古いものの一つだと思う。

 実はこの本、その分量の少なさの割りに値が張るなと思ってなかなか手にとる機会がなかったのが、それは怠慢だった。今まで読んだアフォーダンス本の中でも特に平易で、アフォーダンスについて知りたいと思う人にはまずこの本を勧めたい。


 この本がわかりやすいのは、ギブソンがなぜ環境の中に情報があると考えるようになったか、その思索の遍歴が描かれているからだと思う。

 そして個々の知覚実験に関しても図版をもとに詳しく説明してありイメージがつかみやすい。

 また人間がある事柄がある事態に関係のあるか、ないかの判断を瞬時に行うことができるのかというフレーム問題が、行為を環境から引き離し、主体の中の知識や論理だけを用いて推論させようとするからだという指摘はおもしろかった。 
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ヨーゼフ・ロート『果てしなき逃走』
果てしなき逃走 (岩波文庫)果てしなき逃走 (岩波文庫)
(1993/09)
ヨーゼフ ロート

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「そして今こそ金儲けをしなければならない時なのだ。この社会秩序の中では、ぼくが働くことなど重要ではない。しかしそれだけに、ぼくが収入を得ることは一層必要なのだ。収入のない人間は名前のない人間か、あるいは肉体のない影のようなものなのだ。自分が幽霊のように感じられてくる。これは右に記したことと少しも矛盾しない。ぼくは自分の無為のために良心の呵責を覚えるのではなく、他のすべての人たちの無為には十分報酬が支払われているのに、ぼくの無為は一文の収入にもならないからこそ、呵責を覚えているのだ。生きる権利は金によってしか得られない」

ヨーゼフ・ロート『果てしなき逃走』P.141)


あらすじ


 第一次大戦後、ロシアに潜伏していたオーストリア兵士トゥンダは故郷へ向かう。彼を捕らえた赤軍部隊を率いる女性ナターシャと恋に落ち、彼は革命に身を投じる。革命後、二人の心はすれ違い、彼は別の女性と地方に移った。しかしその地を訪れた仏人女性に婚約者イレーヌの面影を見た彼は全てを捨てウィーンに戻る。兄のもとへ身を寄せた彼だが、婚約者の目撃情報を頼りにフランスへ向かう。次第に貧窮する生活の中で婚約者と再会する彼だが、婚約者は彼のことに気づきもせず去っていく。



 一年ほど前にブックオフの100円コーナーで見つけ、聞いたこともない作家だったので散々迷った挙句、タイトルの魅力に抗することができず買ってしまった本書だが、ようやく読み終わることができた。結果的には買っておいてよかった。

 作者はオーストリア・ハンガリー帝国に生まれ、第一次世界大戦に従軍した後、ウィーンでジャーナリストとして活躍したユダヤ人。解説によると、この作品は1926年に書かれたらしく、後にナチスの手を流れてフランスで客死する著者の生涯を予見する内容ということで知られるそうです。
[ヨーゼフ・ロート『果てしなき逃走』]の続きを読む
ノーマン・メイラー死去
 アメリカのPBSのNewshourという番組で、先日訃報の流れたノーマン・メイラーの生涯を振り返る記事が出ていたので、私にはちょっと難しかったが読んでみた。Literary Experts Look Back on the Dynamic Life of Author Norman Mailer

 記事を読むと、はっきりとものをいうアクティブな人だったんだなという感じを受ける。メイラーが参加したあるディベートを引き分けと判定して記事に書いたらひどく怒られたというエピソードもおもしろいし、「小説家がすべきなのは事実に従う必要はなく、読者にこれが人生だと示す虚構を構築することだ」という言葉も興味深い。


 メイラーのことを知ったのは、大江健三郎が20世紀の作家に残された文学のテーマは性と暴力しかないというような彼の言葉を引用してたからだと思う。それ以来ずっと気になっていたの一人なんだけど、古本屋ではなかなか見つからなくて。『鹿の園』とか全然置いてないですね。
[ノーマン・メイラー死去]の続きを読む
佐々木正人『レイアウトの法則』(2)
レイアウトの法則―アートとアフォーダンスレイアウトの法則―アートとアフォーダンス
(2003/07)
佐々木 正人

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 よくアフォーダンスの説明として、ドアの取手に、握りやすいアフォーダンスがあるかどうかとか、そういう単体のものについては述べられています。それはそれで間違いではない。しかしアフォーダンスという用語にはもう少し先の意味がある。物のアフォーダンスとは、その物が他のものとの配置に埋め込まれた時に現れてくる性質なのです。アフォーダンスの心理学は、行為で周囲を描くことを目指しています。だから行為がデザインする、あるいは行為をデザインする周囲に敏感な心理学です。この点でデザインの領域に近いかなと思っています。

佐々木正人『レイアウトの法則』



 昨日に続き本書。とりあえず読了。この本は第1章でアフォーダンス理論の全体的なアウトラインを描いたあと、心理学者である著者と絵画や写真、建築や書誌レイアウトなどデザインの現場に携わる人たちとの対談を収録している。

 昨日の記事は主に第1章までの内容で難解だった。第2章以降の対談は、具体的な事例に即して理論的な部分が紹介されるので比較的読みやすいように思う。理論的な説明をしている第1章に適宜戻って読むとわかりやすいかもしれない。

 もちろん対談の流れに沿ってのことであるので、理論の全体をつかみたいと思う人には不向きかもしれない。しかし、実際にデザインの現場で活躍する人がどのように自分たちの作品を見ているか、それがアフォーダンスという考え方とどうつながるのかを探っていく試みはおもしろく刺激的である。

 それにしてもギブソンが文字や表現までアフォーダンスで捉えようとしていたことを知って驚いた。ギブソンはかなりドラスティックな世界の見方を確立しようとしていたのだという気がしてくる。
[佐々木正人『レイアウトの法則』(2)]の続きを読む
佐々木正人『レイアウトの法則』(1)
レイアウトの法則―アートとアフォーダンスレイアウトの法則―アートとアフォーダンス
(2003/07)
佐々木 正人

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 最近ニュースでプチプチのおもちゃができたと集中的に報道されたことがあった。その際に、プチプチの魅力を「尖ったものは押したくなるアフォーダンスという現象」と説明されることが多く、アフォーダンスという言葉も浸透してきたんだなと感じた。

 個人的にアフォーダンスには興味を感じつつ何冊かの本にあたったこともあるが、いまだに理解していると胸を張るに至らない。この本はタイトルに惹かれて軽く手にとったのだが、中身は本格的にアートとアフォーダンスについて考察するものだった。

 というわけで、読み終わるまでにしばらくかかりそうなので不完全ですが、備忘録を残していきます。
[佐々木正人『レイアウトの法則』(1)]の続きを読む
「日本の挑戦」
 鶴蒔靖夫著『日本の挑戦』という本を読んでいる。日本の金融資産は預金に偏っていて有効活用されていない。最近ではオプション取引なども使えるようになって、ローリスクでハイリターンも狙える。国債償還のためにインフレになるかもしれないから、預金だって安全じゃない。投資マインドを養って豊かな人生を、という話。

 そこから先物取引の説明をしたあと、なぜかある先物会社の紹介になっていく。その会社の人間とシステムを褒める紹介文が続くので、個人的に辟易、挫折しそう……。

 アマゾンで調べてみると、著者はいろいろな分野で新しいビジネスに挑戦している人を取材して紹介する本を書くライターさんのようで、そういうものなのだと納得。
[「日本の挑戦」]の続きを読む
大岡昇平(編)『中原中也詩集』
中原中也詩集 (岩波文庫)中原中也詩集 (岩波文庫)
(1981/01)
中原 中也

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 月夜の晩に拾つたボタンは
 指先に沁み、心に沁みた

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 どうしてそれが捨てられようか?

中原中也「月夜の浜辺」より



 今年は中原中也の生誕100年にあたるということで、教科書程度でしか読んだことのなかったことを恥ずかし思い読んでみました。月夜の晩に拾った何の役にも立たないボタンにどうしようもなく感情移入してしまう、上に一部引用した詩などはとても好きですね。中也の詩は難解なものはそんなに多くなくて、素直にいいなと思えるものが多い気がします。

 この岩波文庫版の詩集には、生前に編まれた「山羊の歌」と死後に発表された「在りし日の歌」の二つの詩集全編と、未刊行の詩や短歌などから編者が選んだ数十篇が収録されています。収録数は多い割りに、スペースをゆったりととってあって読みやすいです。
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フランク・ベトガー『私はどうして販売外交に成功したか』
私はどうして販売外交に成功したか (Life & business series)私はどうして販売外交に成功したか (Life & business series)
(1982/08)
フランク・ベトガー

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 今日は毛色を変えてビジネス書です。この本は大リーガーだった著者が怪我で野球を断念した後、保険の販売員に転進してから冴えない成績からどのようにしてトップ・セールスマンにまで登りつめたかを自伝的に描いた成功本です。

 知人が営業に関する本を探していたので、前から評判を聞いていたこの本を紹介したところおもしろかったということで借りてきた。自己啓発書のジャンルで有名なデール・カーネギーが「本書を一冊手にするためには、シカゴからニューヨークまででも、喜んで歩いてゆく」と序文を寄せているだけあっていい内容だった。
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J. D. サリンジャー『サリンジャー選集3 倒錯の森』
サリンジャー選集(3) 倒錯の森〈短編集2〉サリンジャー選集(3) 倒錯の森〈短編集2〉
(2000)
J.D.サリンジャー、刈田 元司 他

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 一つの物語はけっして終わることがない。語り手は通例ことばを切るのに適当な、気のきいたポイントをみつけるだけだ。ただ、それだけだ。

J. D. サリンジャー「ブルー・メロディ」



 昨日の『サリンジャー選集2』に続き、単行本未収録の中短篇5つが収録されている。昨日も少し書いたが、このようにほぼ年代順に初期の短篇を読み進めていくと、次第にその作品が洗練されていくのがわかって感慨深いものがあります。よく「全集を読め」といわれるのは、こういう面もあるのかな。

『選集2』に収録されているのは習作といった面が強かったけれど、本書になると楽しんで読める作品が多くなってきた。よく知られたサリンジャーの作品に近づいてる感じがよく伝わってくる。
[J. D. サリンジャー『サリンジャー選集3 倒錯の森』]の続きを読む
J. D. サリンジャー『サリンジャー選集2 若者たち』
サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉
(2000)
J.D.サリンジャー、刈田 元司 他

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 ただね、この前の戦争にせよ、こんどの戦争にせよ、そこで戦った男たちはいったん戦争がすんだら、もう口を閉ざして、どんなことがあっても二度とそんな話をするべきじゃない――それはみんなの義務だってことを、ぼくはこればかりは心から信じてるんだ。

J. D. サリンジャー「最後の休暇の最後の日」



 サリンジャーは『ナイン・ストーリーズ』をまとめて出版する前に20篇近い短篇を雑誌に発表している。サリンジャー自身はあまりこれらの短篇について触れられることを嫌がっているようだが、日本ではこのようにまとめて読むことができて嬉しい。

 本書には1940年発表の処女作から1945年までの16編が並べられている。一場面を切り取ったスケッチのようなものや、叙述トリックを使ったあまりうまいとはいえない掌編から、次第に第二次大戦の影響を受けた作品、特にベーヴ・グラドウォーラー、ヴィンセント・コールフィールド、その弟のホールデンらが登場するナイーヴな一連の作品に変わっていく。
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高木光太郎『証言の心理学』
証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う (中公新書)
(2006/05)
高木 光太郎

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 心理学の本を読んでいると人は簡単に誤りを起こしてしまうことがわかる。その辺りが心理学がおもしろいところだと思う。下條信輔が『サブリミナル・マインド』で指摘するように、責任逃れにつながる可能性はあるのかもしれないが。

 目撃証言はその扱う場面が大きな意味を持つこともあり、専門書もあるようだ。このコンパクトな本では、「記憶の脆さ」「ネットワークする記憶」「正解のない世界」の3つのキーワードから、心理学が証言の現場にどのように迫るのかを描いていく。

[高木光太郎『証言の心理学』]の続きを読む
小島信夫『抱擁家族』
抱擁家族 (講談社文芸文庫)抱擁家族 (講談社文芸文庫)
(1988/02)
小島 信夫

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「塀よりも家の中を直さなくちゃ。あの台所は失敗したなあ。あんなものじゃ台所なんていえないわよ。それともそのくらいの費用をかけるなら……」
「いや、塀だけのことをいうんだ。かこいたいんだ」
 と前とおなじことをくりかえしながら、俊介は、時子の様子をうかがった。
 おれは時子を閉じこめたい。閉じこめておいて、おれや家族のことしか考えないようにさせたい。しかし俊介はそのことを勿論口に出さなかった。

(小島信夫『抱擁家族」)



 つい最近訃報を聞いたなと思って、図書館でふと手にとった。煽りによると島尾敏雄『死の棘』と似たようなテーマを扱っていることで読んでみることにした。

あらすじ


 大の講師の三輪俊介は妻時子と家に出入りする米軍将校との親密な関係を指摘される。情事を認めた妻を交じえ俊介は将校と話をつけ一家を立て直す決意する。回復を示すように将校を新居に招待する一家。しかし妻は乳癌に蝕まれていた。献身的な看病をする俊介だが、妻は回復することはなかった。妻のいなくなった家に耐えられない息子良一との関係は悪くなる一方。再婚を決意する俊介だが、果たせぬうちに良一は家出してしまう。



 重苦しい『死の棘』の雰囲気とは対照的に、淡々とした日常描写が続き、明るくポップな印象すら受ける。けれども扱っているテーマは重く、ままならない家族関係に奮闘する主人公がおかしくも切ない。
[小島信夫『抱擁家族』]の続きを読む
オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』
ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)
(1979/01)
オマル・ハイヤーム

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 チューリップのおもて、糸杉のあで姿よ、
 わが面影のいかばかり麗しかろうと、
 なんのためにこうしてわれを久遠の絵師は
 土のうてなになんか飾ったものだろう?

 二つ戸口のこの宿にいることの効果は
 心の痛みと命へのあきらめのみだ。
 生の息吹きを知らない者が羨ましい。
 母から生まれなかったものこそ幸福だ!

オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』



 11世紀ペルシアの万能人オマル・ハイヤームの高名な詩集。ルバイヤートとはペルシアの四行詩ルバーイイの複数形。この本には全部で143首の四行詩が収められている。

 この本を手にとるきっかけになったのは、最近読んだT.S. エリオットがフィツジェラルド訳の『ルバイヤート』に影響を受けていたと知ったから。『ルバイヤート』の訳文は平易で、100頁ほどと短くすぐに読むことができた。
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レイモンド・カーヴァー「収集」
Where I'm Calling from: New and Selected Stories (Vintage Contemporaries)Where I'm Calling from: New and Selected Stories (Vintage Contemporaries)
(1989/06)
Raymond Carver

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 最近は昔丸善のバーゲンで買ったこの本をちまちまと読み進めている。洋書のいいところは、自分ぐらいの英語力だと一冊読み終わるのに時間がかかるので書籍代の節約になるところ。すらすらと読めるようになるのが目標なんだけど。

 この本にはカーヴァーの小説がほぼ年代順に収録されている。詩やエッセイは収録されていないが、これ一冊でカーヴァーの代表作は読むことができる。

 村上春樹が訳した『僕が電話をかけている場所』や『夜になると鮭は……』、『ささやかだけれど、役に立つこと』を読んでから、カーヴァーは好きな作家の一人だった。個人的には後期の作品のほうが希望がほのみえる結末がつけられることが多くて好きだったのだが、5分の1ほど読み進めて初期の短編も面白いなと再発見する思いだった。
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